かすみ草の花束を。


「莉乃さん…安心して下さい。 私は黒崎先輩に嫌いだときっぱり断られましたし…もう先輩には近づきません」

「……」

莉乃さんは黙ったまま私を見つめる。

「莉乃さんも、辛かったですよね…黒崎先輩のこと好きなのに別れるなんて…」

私が莉乃さんだったら…好きな人に自分のことを信じてもらえないのはやっぱり悲しい。

そう考えても無駄なこと。
こんな綺麗な人だからこそ、起こってしまった悲劇なのだ。

「ありがとうございます…ずっと、先輩のこと想ってくれて」

この人は私よりも長い間、黒崎先輩のことを想い続けてるんだ。
何もかも、完敗じゃないか。

莉乃さんはブランコから立ち上がる。

本当に綺麗でお人形のように美しいな…

「今日は、付き合ってくれてありがとう…小枝ちゃんもいい人見つけてね…」

そう言って莉乃さんは、ニッコリ笑って早々と帰っていった。

いい人、か…

黒崎先輩しか好きになったことがない私には、いい人の見つけ方はわからない。

タイプはどんな人かと聞かれても、『黒崎先輩』だと即答してしまうだろう。
やっぱり黒崎先輩以外の人を好きになるなんて想像できない。

好きな人と想いが通じ合うってどんな気持ちだろう。

………本当は

私が幸せにしたかった……

あの優しい人を。

黒崎先輩が幸せになるなら、私が離れることが先輩や莉乃さんのためになるのなら、私は喜んで、先輩から離れようと思う。

今日泣いたら、明日からはもう泣かない。

強くなりたいから。

私は、もう泣かないと心に決めて、静かに涙を流した。ーー


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