かすみ草の花束を。


どうしてそんなこわい目にあった後に、俺のそばにいると危険だってこともわかった上で、何も言わずに、あんなにまっすぐ…俺のそばにいると、ひとりにさせないと、言えたんだろう。

どこまであいつは…強いんだろう……

そう思ったら、さっき熱くなった目頭が再び熱くなっていく。

く…っ、そ……
守りたくて強くなりたかったのに、守りたいやつを守れなきゃ意味がない。

「先輩、守って下さい。 俺の好きな人を」

「…!?」

「俺じゃ無理みたいなんで…俺が本物のヒーローなら、落ちる前に助けられたと思うし」

「……そんなの、誰だって無理。
物語のヒーローは都合よくできてんだ。
俺はその瞬間に遭遇すらできなかった。
前に花咲に自分のこと悪者なんて言ったことあるけど、今思えばラスボスが現れる前のザコキャラってとこだな…」

物語の中では魔法や超能力だって使えたりする。
ヒーローは、ピンチの時に絶対助けられるけど、現実は…どんなに守りたくても、守れないことがある。

「だから、花咲のこと助けてくれてありがとな…神城が見つけてくれて良かった」

「そんなこと言う悪者もザコキャラもいませんけどね…」

「なんか言ったか?」

「いえ…別に」

なんだ?
また文句?

神城が花咲のことを好きなら、こいつからしても俺は目障りな存在だろう。
"助けてくれてありがとう"なんて、何もできなかった俺から言われて苛立たせたのかもしれない……


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