かすみ草の花束を。
いくらでも気づくことはできたはずなのに……
動物園で感じた莉乃さんへの異様なまでの殺気。
動物園での帰り道、黒崎先輩が見せた傷ついたような顔。
先輩の部屋で聞こえた" 傷つけてごめん "
黒崎先輩の涙。
先輩は私のことを嫌いなままかもしれないけど、私のことを守ろうとしてくれた。
私は出会ってからずっと、黒崎先輩に守られてきたんだ。
全部自分のせいだと責任を感じる黒崎先輩を、今度は私が守りたい。
先輩のせいじゃないよって。
どうしたらそう思ってもらえるかわからないけど、冬夜さんに会うことが正解かもわからないけど、私はやっぱり、先輩の大事な人と先輩が、ずっと笑顔で笑いあえてたらいいと思うから……。
今はそれだけ。
余計なことは考えない。
「……?」
外を見ていると、目の前を右手で杖をつき、左手には買い物をした後の袋を持っているおじいさんが歩いていた。
傘をさしていないので、ブルブル震えながらずぶ濡れになっている。
私は抹茶ラテを頼んでいたので、お金だけ近くにいた店員さんに渡すと、慌てて店内を出てそのおじいさんのもとに向かう。
「あのっ、良ければこの傘使って下さい」
自分の傘を広げたまま声をかけ、おじいさんにその傘を差し出した。