かすみ草の花束を。
「ここは…?」
執事さんが私を抱っこしたまま隠し扉のようなドアを開けると、中は薄暗く、目の前には小さな階段があって物置きのような部屋だった。
壁には窓がひとつついている。
「お嬢様が小さい頃、旦那様によく閉じ込められていた部屋です」
「…!?」
「奥様が亡くなられてから、旦那様は奥様に似ている小さなお嬢様の顔を見るたびここに閉じ込め、見ないようにしました。 そのためお嬢様は、自分が旦那様に愛されない存在だと思っております」
ほんとに……どうして…そんなに絡まり続けるのだろう……
「ここへ花咲様を連れて来ることは、お嬢様に従ったわけですが…手荒に扱ってしまったこと、申し訳ございません…黒崎様は必ず迎えに来るので、どうかそれまで待っていて下さい」
そう言って私を床に置いたまま、夏目さんは部屋を出て行った。
「……」
先輩が迎えに来るまで、待つ……?
冗談じゃない…!
ここに入って来る時夏目さんは壁のドアを押した。
この部屋のドアは壁と同じ色、柄で、知らない人はここにドアがあると気づかない。
ドアノブもない隠し扉。
いくら先輩でも、言われなきゃさすがにあんなドア気づかない。
頑丈に手足が縛られているため、足の縄を手でほどこうとしても思うように動かずビクともしなかった。
私は階段を這いずるように上ってドアを押してみるが、やっぱり中からではビクともせず。
内側にももちろんドアノブはない。
つまり外から押さない限り、中からは絶対開けられないというわけだ。