かすみ草の花束を。
じわじわと近づき、見えたものは……
俺が花咲の誕生日に渡したかすみ草のイヤリング。
「…っ…!?」
ここで花咲は誰かに連れていかれたんだ……
誰かなんてわかってる。
相手はひとりしかいない。
「来たな、兄ちゃん」
俺が落ちて汚れてしまった片っぽのイヤリングを拾うと、誰かに声をかけられた。
「…誰…?」
目の前にいるじいさんは「お嬢ちゃんは無事だ。 会いたけりゃ大人しくついてきな」と言って歩いていく。
花咲が声をかけたというじいさんはずぶ濡れだったと聞くが、このじいさんはしっかり傘をさしていて濡れてもいない。
騙して連れ去った…?
俺の眉間には深く深くシワが入り続けている。
「篠塚社長の家にあんた連れて行かなきゃ俺の仕事が終わらないんだよ」
「…っ!」
俺はぎゅっと拳を握りしめて、湧き出る感情を何とか押し込め、黙ってそのじいさんの車の後部座席に乗った。
声を出すと何振り構わずいろんな人間を傷つけてしまいそうだったから。
頼むから、花咲には手を出さないでくれ……
これ以上あいつのこと傷つけないでくれ……
初めての気持ちばかりくれる女の子に、俺はまだ何もしていない。
自分の想いすらまともに伝えられてないんだ。
だから……
動いていく車の中、俺の心臓は気が気じゃなく、今にも飛び出してしまいそうなほどで。
「…そんなにあのお嬢ちゃんが大事かい」
そう言ったじいさんの声すら耳に入ってこなかった。ーー