かすみ草の花束を。
『今日がこんなに、天気が悪くなるなんて知ってたら、絶対行かせませんでした…!』
「なに…雷、恐怖症…?」
俺はその言葉が信じられず、聞き返す。
『…小枝は小学生の頃、ある男の人から…ストーカーされていて…学校から帰宅途中…誘拐されそうになったことが…あります……』
…は……?
ストーカー…に…誘拐…?
『…その日も、今日みたいに雨が降ってて…日付も同じ日なんです…っ
たまたまその日は、私が習い事があって先に帰ってしまって…小枝はひとりで土手を歩いて帰ってて…』
スマホ越しで聞こえてくる町野の声は震えていた。
『そこを誘拐犯に、狙われたんです…
土手で小枝に声をかけて…小枝は連れていかれそうになりましたが、小枝が必死で抵抗した拍子に、ぬかるんだ地面で滑って…そのまま小枝は、勢いよく転がり落ちた…っ…』
「…………」
話を聞いてると、今のあいつからはとてもそんなことがあったと思えない。
ずっと、見せないようにしていたのか……
『大きな岩に背中をぶつけて…運良く河川敷まで行かなかったので、増水した川で溺れることはなかったけど…
その誘拐犯は…動かなくなった小枝を置いて、逃げたんです…っ!』
「…っ……!」
まさか…あいつは…………
俺は自分の目を、今までないくらいこれでもかと見開いた。
『小枝が言ってました…
降りしきる雨の中、雷が鳴り出して、体は痛くて、いつ雷が自分に落ちるか…このまま自分は死ぬんじゃないか、恐怖で目の前が真っ暗だったって……だから…っ!』
「……わかった」
『へ……』
「花咲絶対連れて帰るから。 もう何があっても俺は、あいつのこと諦めたりしない」
俺はそう言って通話を切った。