かすみ草の花束を。


「あ……先輩、ごめんなさい……私、どこかに…ひとつ落としてしまって……」

私は手に持っていた片方のかすみ草のイヤリングを黒崎先輩に見せる。

「せっかく…先輩が選んでくれたのに…っ」

そう思ったら簡単に涙がポロポロ流れ出た。

何で今日、つけてきたんだろう…っ

ずっと大事に持ってたんだ。
だってこれは私の宝物で…物にこだわる自分も情けないけど、先輩が私に選んでくれた贈り物だから……

「…っ!?」

私の小さく縮こまる体は、ぎゅっとあったかい何かに包まれた。
昨日もそうだった。
私が泣くと、先輩は好きでもない私のことを抱きしめてくれる。

「せんぱい……、…っ…!」

"気を遣わせてごめんなさい"と言おうとした瞬間、フワッと先輩の上着から甘い匂いがして、私は無意識に先輩を突き飛ばしていた。

「香水の…匂い……」

それは公園で話をした時に、莉乃さんからほんのり香った匂いと同じだった。

すると黒崎先輩は何も言わずに、黒のコーチジャケットのボタンをバババッと一気に外し脱ぎ捨てる。
そして無地の白のシンプルなロンTだけになった先輩が、私を見つめてゆっくりもう一度抱きしめた。

「逆に汗くさいかも」

そう言う先輩の腕の中で私は頭を横に振ると、先輩の腕の力がぐっと強くなる。

「…っ…」

いつもより先輩の匂いが濃くて、服の生地が薄いから熱が伝わりやすい。

おかげで私の心臓はバクバクして飛び出しそうで。
体の震えなんてとっくに治った。
雷の音すらもう聞こえない。
それとは別に、先輩の胸からトクントクンと優しく動く心臓の音が聞こえてきた。


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