かすみ草の花束を。


「…あんたは…知っててくれてるんだろ?」

「…え…」

「俺が知らないこと」

……自分で言っててよくわからない。

けど、隣に座っているこいつは、まるでいいことがあったかのような明るい顔になった。

「…っ! はい!
先輩が知らないのなら、気づいてないのなら…、私が意地でも気づかせてみせます…っ!」

「…こわ」

「覚悟しててくださいね!」

そう言ってまた花のように笑う。
泣いたり笑ったり驚いたり、こいつは表情までうるさい。

「黒崎先輩!
昨日も今日も、勉強教えてくれた上に、ご飯まで付き合ってくれて、ありがとうございます!」

「……」

………むかつく

何であんたは、そうやっていつも俺に感謝するんだ。
俺は感謝されるような人間じゃない。
ましてや、そんな風にまっすぐに好きになってもらえるような人間じゃないんだ…。

「…先輩?」

その声も
俺を見つめる目も

こいつの何もかもが俺の体温を上昇させる気がする。

「…ずりーのはどっちだよ」

「へ…?」

「……ひとりごと。 早く食え」

まだ夏の前の梅雨の日。
雨は降らず、空には雲ひとつない。
不思議なくらい暖かく感じた。

こいつの隣で、明日も晴れますようにと願いながら。ーー


< 91 / 396 >

この作品をシェア

pagetop