かすみ草の花束を。


『もともと体が弱かったせいか、出産すると命に関わる状態だったみたいだけど、純の母親は迷いなく自分の命より純の命をとった』

……先輩のお母さんが……
そんなこと、知らない…何も知らなかった……

先輩のこと見てたと言うわりに、私はまだまだ先輩のことを知らないのかもしれない。

『無事に出産は終えて、母親もなんとか一命はとりとめたんだけど…、それから体はどんどん弱っていく一方で、まだ若い年齢でこの世から去ってしまったんだ……』

「……ひっ…く」

だめだ…どうしよう……

流川先輩から聞く黒崎先輩の話に、涙が止まらない。
私が泣いたってしょうがないのに…黒崎先輩を思うとどうしても涙が溢れてしまう。

自分だったら耐えられない。
お母さんがそばにいないなんて、考えたくもないことなのに、先輩はどれほどの辛さや悲しみの中で生きてきたんだろう……

『花咲さん?
泣かせちゃったかな…突然ごめんね。
でもやっぱり、花咲さんに知ってほしくて…花咲さんに、どうしても純のそばにいてほしくて……

今日がその、純のお母さんの……命日なんだ』


「…っ…!!」


『純はたぶん…人と関わることに怯えてこわがってる。
大切な人を失くした時の気持ちを知ってるから。
人を信じられないのはきっと、一番信じてた人がいなくなってしまったから。

純は、母親が亡くなったのは自分のせいだと思ってるんだ…そうじゃないのに、違うのに……
そんな自分のことが嫌いで、そんな自分が本当に好かれるわけないと思ってる』

「…っ…」

私…本当に先輩のこと、何もわかってなかった……


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