嘘つきシンデレラ



「ひっく。」




「ん?」




「えっと、あの、ひっく。」




やだ、しゃっくりが!




「っっく。」




しゃっくり、とまらないよお。




「ふはははは」




社長がまた、そんなかわいい笑顔するから。




ひっく。




やだ、恥ずかしい。



なんとか、止まってよ。




立ち上がろうとするさとみ。




え?




足元がふらつく。




「おっと」




あれれ?




社長が立ち上がり、腕を持って支えてくれる。




「あ、すいません。ありがとうございます」




「酔ってるのか?」




「ちょっと…。




ワインなんて、あんまり飲んだことなかったから。




でも、さっきまで大丈夫だったんですけど。」




たぶん。




「急に…。




社長の顔みたら、安心しちゃって」




「何だそれ。



俺の顔見て、そんなこと言うヤツいねえよ」




皮肉げに、社長が笑って言った。




「何言っているんですか。



社長はほんとに人気者ですよ。



みんなから必要とされてる」



話しながらも、しゃっくりがとまらない。




「っっく」




「弟さんだって、っひっく」




えーん。




とまらない。




「おまえ人は



大事にするのに




自分を大事にしないのな」




え?




その言葉に答えを返す前に、



社長がさとみをさっと、抱え上げた。




「キャ」




「あ、あの。社長」




社長が両腕で、




さとみを自分の方に引き寄せたので、

 


さとみは必然的に、社長の首元を持つ形になる。




こ、これは、世にいうお姫様抱っこでは。




慌てるさとみ。




「帰るぞ」




社長が何でもないように、




軽々とさとみを抱いて歩き出す。




ドキドキ。




胸がいっぱいで、どうしたらいいの。




「あ、あの。社長。わたし、だいじょう…




ひっく」




まだしゃっくりが、もう。




「ふっ」




目の前で、社長にまた笑われたー




と思ったら、 




少し笑った社長のくちびるがおりてきた。




え?




社長の腕に抱きすくめられて、




ゼロセンチのような




社長とわたしの距離。




え?




ちゅ。




鼻に小鳥のようなキス。




え?




思わず、さとみは鼻を押さえる。




社長がさとみをじっと見る。




え?




ドキドキ。





頭がついていかない。




社長が言った。




「とまった?」




しゃっくりとめるため?




そっか。




ほんと、とまった。









変なの




ちゅ。って




社長はしゃっくり止めるために、




しただけなのに




唇にキスされたんじゃないのに。




こんなに胸が高鳴って




胸の奥が、こんなにあったかくなって




こんなに嬉しいなんて




わたし、どうかしちゃたの?




頬にふれる社長の固くてたくましい胸が




男の人すぎて




こしょばくて、




うれしい。


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