嘘つきシンデレラ




ずっと、涙がこぼれている。




うつむいたまま




肩をふるわせるさとみ。



 
今にも壊れそうで、




こんな時でも、声を押し殺して泣く。




不器用な女。




見ていられない葛西は、




目をそらした。




苦悩したように、眉をよせ目を閉じる。




葛西は、手のひらを握りこむように




拳を作った。




血管が、はっきり浮き出るほど、




力の入ったその手を、ポケットに入れる。




葛西は閉じていた目を




開けた。




深呼吸をして、口を開く。




「300万も、さっきの小切手のことも、




全部もう忘れろ」




「全部チャラにしてやる。」




さとみを見ないで、葛西が言った。




「この家にはしばらく帰らないから。




新しい家がみつかるまで使え」




「お前はもう自由だ。」


 

何にもしばられることはない。




誰もお前を咎めない。






自由になれ。


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