センチメンタル・ファンファーレ




自宅に着いて昨日の残りのカレーを食べ、シャワーを浴びても胃の奥にストレスを感じる。

対局中に食べるおやつを買っただけなのに、関わってしまうと結果が気になるものだ。

無理せずとも明日になればわかるのだから、とテレビをつけたけれど、賑やかなバラエティー番組は目の表面を滑っていくだけで、まったく頭に入ってこなかった。

「もういいや。コンビニ行っちゃおう!」

万年ダイエット。
万年失敗。
それでもメンタルの安定には代えられないものがある。

メイクも落としたのでパーカーのフードをかぶって、サンダルを引っ掛けて家を出た。
さっと行って、さっと買って、さっと帰って来る仕様だ。

「弥哉ちゃん、何してるの?」

この人目を忍ぶ姿で、「話し掛けるな」と気配で威嚇しているのに、突然現れた川奈さんはフードの奥を覗き込んだ。
モタモタ悩んでしまったのが運の尽き。
俯いてフードを引っ張り、すっぴんを隠す。

「こっち見ないで!」

「なんで?」

「……すっぴんだから」

「なーんだ、そんなことか」

フードを覗き込むのをやめて、冷蔵ケースへと視線を移す。

「何を悩んでたの?」

私は『新商品』という赤い札の下を指差す。

「この『二色のミニロールケーキ』っていうのが気になってて」

「うん、おいしそうだね」

「チョコレート&ミントの方はすごく食べたいんだけど、一緒に入ってるストロベリー&バターはあんまり好きじゃなくて」

「千波さんにあげたら?」

「今夜はお泊まり」

「いやーん。千波さんったら、やらしー」

カラッと笑う川奈さんはくたびれたスーツ姿だったけれど、とても元気だった。
迷惑にも長居していた私を押し退け、『二色のミニロールケーキ』を手に取る。

「ストロベリー&バターは俺が食べるよ」

「うーーーん、でも、」

「今朝のお礼。おかげで勝てたから」

「『お礼』って、もともとドーナツがお礼なのに」

「まあまあ、細かいことはいいじゃない。一緒に食べよ」

「食べるってどこで?」


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