センチメンタル・ファンファーレ

大学の友人である明依(めい)から結婚すると報告を受けたのは一週間ほど前のことだ。

『弥哉にも来てもらいたいんだけど、やっぱり無神経かな?』

震えるような明依の声に拒否するなんてできなかった。

『行くに決まってるじゃない。すっごく楽しみ!』

つい過剰なテンションで返事をして、電話を切る前から後悔した。
悔いたところでどうしようもない。
何度やり直しても同じ返事しかできないのだから。
そうして正式な招待状がつい昨日届いた。

「その二次会に俺が行くの? “彼氏”として?」

『最近付き合い始めた彼がものすごくいい人でね、今とっても幸せなんだ』と嘘ののろけ話をぶちかましたわけは、新郎新婦との関係性にある。
新郎の速人(はやと)は私の元彼なのだ。

速人とは大学一年生の秋から三年ほど付き合った。
別に何が悪かったわけでもなく、就職活動と卒論のバタバタですれ違った結果の別れだった。
それでも「まあ、仕方ないか」と諦めがついた時点で、恋は終わっていたのだと思う。
私の方はそれで完全に納得していた。

ところが、内定ももらい、卒論も終わり、卒業式に向けて着物と袴をレンタルする目処もついた頃、明依と速人が付き合っていると知らされた。

「二股かけられてたってこと?」

手の赤みを確認してから、川奈さんはふたたび流水に手を浸す。

「多分そうなんだろうね。ただこっちも終わり方が曖昧っていうか、最後の方はほとんど会ってもいなかったから、ちょっとかぶったくらいだと思う」

それを聞いたところで私は「へー、そうなんだ」と思った程度。
結構好きでライブにも行ったバンドの解散の方がショックだった。
そうでなければその後も明依と友人を続けているはずがない。
でも真面目でおとなしい彼女は、自分のせいで私を不幸にしたと思い込んでいて、卒業して一年半経っても罪悪感は消えないらしい。

「これまでだって何回も『気にしてない』って言ったの。実際何とも思ってないし、そのあと彼氏だってできたし。でもダメみたい」

恋愛経験の多くない私にとって、速人は何もかもが初めての相手だった。
赤裸々な女子トークを通して、つぶさにそれを聞かされてきた明依としては、簡単に割り切れないのかもしれない。
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