センチメンタル・ファンファーレ
住宅街の狭い通りを抜け、駅前のゴミゴミしたところを抜け、車の流れに乗って進んで行く。
「不便で落ち着かないでしょ?」
ふわっと香るマリン系の芳香剤に混ざって、革の匂いがする。
本革のシートは見た目には重苦しいのに、身体にはしっとりやさしかった。
それでもシートの上で固まっていると、察した縁くんが声を掛けてくれた。
「正直言うと、はい」
「でも運転はすごく気持ちいいんだよ。自由自在に操れて」
「マニュアルって教習所以来初めて見た」
「これ味わっちゃうとオートマは乗りたくないな」
運転免許すらオートマ限定で取った私には、ガチガチ動かすレバーの意味さえよくわからない。
「荷物は全部トランク?」
「いや、財布と携帯しか持ってない」
「彼女さん文句言わない?」
「女の子には不評だけど、嫌なら電車で移動すればいい。俺はこれで行くから」
「この助手席は荷物用かあ」
否定せず、縁くんは微笑みで応えた。
「スーツって、もしかして結婚パーティーのため?」
「それもあるけど、一番は今度の解説のため。普段使いのより、ちょっとだけいいやつ欲しくて」
「……オーダーとか?」
「あれもこれもお金掛ける余裕ない。普通にショップで買うよ」