探偵さんの、宝物
「――ですから、是非、僕の探偵事務所に来て頂きたい」

「え?」

 言われた事の意味が、すぐには理解出来なかった。あまりにも想定と違っていたから。

 探偵事務所に来て頂きたい、って言った?

「ええと、その、つまり。
 私が楓堂さんの探偵事務所で働く、ということですか?」

「そうです。是非うちに来てほしいのです」

 あ……そっち。

 私の超能力に憧れていて、仕事に役立ちそうだから勧誘するってことかな?
 うん、そうか。恋愛感情じゃないと。ああ、なるほど。

 急速に顔の熱が引いていくのが分かった。

「なるほど、そう、ですか」

 予知夢を良いように解釈して、一人で舞い上がって私、馬鹿だなぁ……。そんな心配、最初から無かったんだ。
 心の中に季節を先取りした木枯らしが吹きすさんでいた。

「楓堂さん。
 私の力、何でも出来るように見えても大した事ないんですよ?」

 どっと疲れて投げやりな気持ちになって、私はサイコキネシスを使い、コーヒーカップを手を使わずに持ち上げて見せた。それを地球儀のようにくるくると回す。

「すごい……」

 彼は目を見開いて、回るカップを見つめた。

「サイコキネシスで手を触れずに物を動かしたり出来ますが、自分の腕力と同じくらいの物しか動かせないし、疲れるから連続では使えない。
 それに予知夢だって、見たい時に見られるわけじゃないんです」

 私は弄んだカップを手の平に着地させた。

「だから、探偵さんのお役に立てるようなものではありません」

 諭すように言っても、楓堂さんは(かぶり)を振る。

「今回尾花さんをスカウトしたのは、特別な力を持っているからというだけではありません。
 貴女の困っている人を放って置けない優しい性格が、僕の求める探偵像そのものだからです」

 困っている人を放って置けない優しい性格、か。
 違うのに。そんな綺麗なものじゃないのに。

 私は両親以外誰にも話したことが無い秘密をとうとうと語る。

「昔、子供の頃。超能力で友達を助けて、それが噂になって結果的にクラスの男子からいじめを受けるようになってしまいました。
 それで『二度と超能力で人助けなんかしない』って思ったんです」

「……そんなことが」

 彼は自分のことではないのに、沈痛な面持ちをしている。

「しかも私、力を使ってその子達に反撃したんです。
 髪の毛をぐちゃぐちゃにしたり、バスケの授業で絶対にゴールが決まらないようにしたり。
 そういう奴なんです、私。そんなに良い人じゃないんですよ」

 彼はそれを聞くと、ぷっと吹き出した。

「随分、可愛い反撃ですね」

 楓堂さんはツボに入ったようで、くつくつと笑っていた。
 そんなに笑われるとは思わなかったので、私は眉根を寄せる。



「やはり貴女は、思った通りの尾花結月さんです。
 是非うちに来てください。
 きっと貴女の力が、優しさが役立つ時が来ます。
 現に貴女に助けられた僕は、今とても感謝しているんですよ」
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