探偵さんの、宝物
 ***

 今目の前にいる、大人になった彼は続ける。

「彼女は僕の手を引いて、公園に連れて行きました。
 そして近所の男の子達に拾われておもちゃにされていたそれを、不思議な力を使って取り返してくれました」

 やっぱり、そうなの?

 私が小学校五年生の時に出会った、宝物を失くして困っていた三年生の男の子。
 それより前に、力を使ってクラスメイトを助けたことがきっかけでいじめに遭った経験から、人を助けることに抵抗があった。
 でもあの子を見たら、放って置けなかった。
 その日予知夢で見ていた場所に連れて行き、サイコキネシスを使って私の同級生から取り返した。

 でも、あの時の『すばる君』は小さな男の子で……。

 私はちらりと楓堂さんのテーブルの上で組まれた手を見る。
 腕時計をした太い手首、適度にごつごつした手の甲、長い指。

 ……嘘だ。あの時引いて歩いた手は、こんな色気漂う大人の男性のものじゃなかった。

「どうしてすぐに見付けられたのか、そして取り返せたのかと聞いたら、彼女はこう言ったんです。
 ……『私が探偵だから』と」

「嘘! 私そんなこと言ったんですか!?」
 思わず大きな声が出た。顔に両手をあてて真っ赤になる。
 うわぁ……。すばる君の事は思い出したけど、それは全く記憶に無い。何、その恥ずかしい謎発言は……。

「言いましたよ、絶対、確実に言いました」
 楓堂さんは自信ありげに、大きく頷いた。

「……僕は貴女に憧れて、今。
 探偵をやっているんですから」

「私に……?」

「そうです。貴女の様になりたくて。
 尾花さんは僕の憧れのヒロインだったんです」

 楓堂さんは耳を赤くしながら、それでも目を逸らさない。



 ――彼の名前に聞き覚えがある理由も、彼が私の力について知っている理由も判明した。
 デザートも食べ終わっている。いよいよ、予知夢と現実が重なる瞬間が近付いてきた。



 目の前には、テーブル、その上に空になったコーヒーカップとデザートグラスが二人分。
 テーブルの向かい側には、楓堂さんが座っている。

 彼は熱っぽく、真剣に私を見つめて言った。

「貴女を探していました」



 予習をしてきたのに、生の声でそれを聞くと頭がまっしろになる。

 どうしよう。私、何て返事をすればいいの……?
< 14 / 65 >

この作品をシェア

pagetop