冷徹社長の初恋
「もしもし」

「絲、今大丈夫か?」

「はい」

「今日も残業か?」

「水曜日は、19時には追い出されてしまうので、20時頃に帰ってきましたよ」

「いつもはそれより遅いのか?」

春日さんが、驚いたように聞いてきた。
うーん……よくわからないけど、きっと春日さんの方が、毎晩遅くまで働いていると思う。

「いつもは、もう1時間ぐらい遅いですよ」

「本当に大変な仕事なんだな。絲、疲れているところ悪いんだが、教えて欲しいことがある」

私が春日さんに教えられることなんて、あるんだろうか……
疑問に思いつつ、話を聞いた。

「絲達は、5月に見学に来ただろ?この時期が一番受け入れ数が多いんだが、秋頃に来る学校もそこそこある。この違いが何だかわかるか?」

「ああ、たぶんですけど、5月頃に来る学校は、教科書通りの順番で学習を進めている学校だと思います。
でも、学校行事と重なって、慌ただしくなるから避けたり、意図的に学習の順番を入れ替えたりして、見学の時期がずれることもあると思いますよ」

「なるほど。社会科なら、学習の順番を入れ替えることも可能な教科だな。わかった。ありがとう、絲」

「いいえ。お役に立ててよかったです」

「絲、頑張るのは絲のいいところだが、無理はしないようにな」

「はい。春日さんも、ちゃんと休んで、食事もとってくださいね」

「ああ。じゃあ、今度絲の夕飯時にお邪魔でもするかな。おいしいものにありつけそうだ」

「えっ?えっ?」

「あはは。それじゃあ、おやすみ、絲」

「お、おやすみなさい」

通話を切った後も、春日さんの低くて柔らかい声が、耳元で聞こえる気がする。

〝絲の夕飯時にお邪魔でもするかな〟

冗談だってわかってはいるけど……そんなふうに言われたら、ドキドキしてしまう。
今夜はなんだか、春日さんのことばかり考えてしまって、なかなか寝付けなかった。

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