冷徹社長の初恋
すっかり話し込んでしまい、夕方遅くになっていた。
自分が誘ったのだからと、喫茶店の支払いを春日さんが全てしてくれて、恐縮してしまった。

「すみません、ケーキまでご馳走になってしまって」

「いや、いい。また来よう」

また?とは思いつつ、とりあえず「はい」と返した。

最寄り駅まで乗せてくれれば大丈夫だと言う私に、「ついでだから」と、自宅まで送っていただくことになってしまった。

「すみません。ご予定は大丈夫でしたか?」

「大丈夫だ。あとは会社に寄るぐらいだ」

「そうですか。それではまた、参観の日程をお知らせしますね」

「ああ、頼んだ」

シートベルトを外して、ドアを開けようとすると、

「絲」

と呼ばれた。
その声が親しみを込めたような声音で、驚いた。

「土曜日、楽しみにしている」

「は、はい。頑張りますね」

その視線の優しさに、胸が高なった。

「きょ、今日はありがとうございました」

「ああ、またな」

焦るように車を降りてドアを閉めると、春日さんはミラー越しに片手を上げて去っていった。

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