きみこえ
ほろ苦なご褒美 後編 果てないソラに・・・・・・
次々と映し出される星々は、とても幻想的で、神秘的で、美しかった。
音が聞こえない為、解説は何を言っているか分からなかったが、その分より本物の星を見ているような気分になれ、ほのかは満足していた。
冬真も楽しんでいるだろうかと気になり、隣を見ると冬真と目が合った。
だが、それも一瞬の事で、冬真はすぐに頭をぐるりと反転させた。
ほのかは先程まで忘れていた気持ちに再び襲われた。
それは段々と靄の様になって心の中を広がっていった。
プラネタリウムの上映が終わると二人は天体模型が並ぶコーナーを静かに歩いていた。
ーー沈黙が重い・・・・・・。
冬真は元々学校でも陽太と比べたら余り喋らない方だったが、それでもいつもならもう少し話してくれていた。
ほのかは今日は何故か無口な冬真が気になっていた。
思えば、朝から言葉が少なかったり、手を振り払われたり、並んで歩かず速く歩いてたり、プラネタリウムでも手をすぐに離されたり、目が合っても物凄い勢いで逸らされた。
思い出せば思い出す程ほのかは不安になった。
ほのかはその不安からある考えが頭を占めていた。
いつの間にか、冬真に嫌われる様な事をしてしまったのかもしれない・・・・・・。
きっと朝から遅刻してしまったのがいけなかったのだとほのかは思った。
もっと、冬真と仲良くなりたいと思っていたほのかは悲しさで胸が詰まりそうになった。
このまま嫌われてしまうくらいならと、ほのかは背中のリュックから手提げの布バックを取り出し、前方を歩く冬真の袖を引っ張った。
すると、冬真は驚いた様な顔で振り返った。
「月島さん?」
【今日はありがとう。これ、勉強を教えてくれたお礼に】
「えっ?」
ほのかはバックを冬真に半ば押し付けるように渡すとくるりと後ろを向き、その場から逃げる様に走り去った。
「月島さんっ!?」
渡された物を見ると、冬真は目を見開き、唇を噛み締めその場に立ち尽くした。
ほのかは出口を目指して走っていた。
だが、建物内は迷路の様に広く、宇宙をイメージした空間は暗めの配色になっていて道順も分かりにくくなっていた。
ほのかは走るのを止め、じっくり出口を探す事にした。
一人で展示を見ながら歩いていると、まるで宇宙空間に取り残された宇宙飛行士にでもなった気分になった。
――寂しい。
そんな気持ちが込み上げ、ずっと堰き止めていた物が壊れた。
月の満ち欠けが模型で置いてある展示の前で立ち止まっていると、ほのかは誰かに手を掴まれた。
それは汗をかきながら息を荒くした冬真だった。
「はあっ、はあ、歩くのは遅いくせに走るの速すぎ」
そして、ほのかの顔を見て冬真はハッとした。
「何で・・・・・・、何で泣くんだよ」
冬真は手を引くと、ほのかの頭を自分の胸に抱きとめた。
ずっと静かにその体勢のまま、冬真はほのかが泣き止むのを待った。
それは冬真自身がほのかの泣き顔を見たくなかったからでもあった。
お世話係として、友達として、その笑顔を守ると決めたのに、今日の自分に腹が立った。
暫くして、ほのかの手と頭を離すと、ほのかは落ち着いてきたのか涙は止まっていた。
「どうして泣いてたの? 月島さんが何を思っているのか、ちゃんと言って欲しい」
ほのかは迷っていたが、その熱のこもった瞳から逃げられず、スケッチブックを手に取った。
【避けられてる気がして、嫌われたのかと思って】
「はあ? 何で・・・・・・」
冬真はほのかが何故そう思うのかがすぐには分からなかった。
そして、朝からの自分の態度を顧みて、ほのかにどう映っていたのかを想像した。
「あー、違うんだ」
ほのかは何が違うのだろうとキョトンとした顔をした。
冬真は言うのを躊躇っていたが、今度は自分がちゃんと言う番だと意を決して口を開いた。
「本当は今日、ずっと楽しみにしてたんだ。月島さんも星とか好きなのかと思ったら嬉しくなった。朝会った時もいつもの制服じゃなくて可愛いって思ったら緊張して・・・・・・、そもそも、俺、女子苦手な方で・・・・・・色々慣れてないし、ちょっと触れただけで、目が合っただけで意識して・・・・・・、だから、嫌いとか絶対そんな事ないから」
冬真は一気にそう言うと恥ずかしそうに右手で顔を押えた。
「あーーもう、こんな事言わせるなよ、カッコ悪い・・・・・・」
ほのかは嫌われてたんじゃないと分かり、鬱々としていた顔を明るくさせた。
いつものクールな冬真からは考えられないくらい顔を赤くさせている様子を見て、ほのかはつられて頬を染めた。
緊張したり、意識してしまっていたのは自分でだけではなかった事に妙に安心してほのかは顔を綻ばせた。
「やっと笑った。もうお昼だし、これ、一緒に食べてくれる?」
冬真はほのかから渡された袋を目の前に突き出して言った。
二人は場所を移動し、建物の外に設置されているテーブルで食事をする事にした。
冬真に渡したのは手作りのお弁当だった。
誰かにお弁当を作るのは初めてで、蓋を開けるのが恥ずかしくなった。
ほのかは意を決してお弁当の蓋を開け、中を一目見ると素早く蓋を閉めた。
「え? 何で閉めるの?」
冬真は蓋を押さえるほのかの手を退けるとほのかが止めるのも構わずそれを開けた。
中を見て、冬真はほのかが必死に止める理由が分かった。
お弁当の中身は唐揚げやミートボール、プチトマト等、食べやすい物が入っていたが、箱のあちこちに飛び散りぐちゃぐちゃになっていた。
辛うじて、星の形に握ってあるおにぎりだけは原型を留めていた。
「そう言えば朝とか、さっき俺も走ってたからな・・・・・・。別に、ぐちゃぐちゃだからって味は変わらないだろ」
そう言って冬真はおにぎりを一つ掴み食べ始めた。
その様子をほのかは固唾を飲んで見守った。
一生懸命作り方を調べたり、朝早く起きて作った。
味見もちゃんとしたので食べられる物になっている筈だったが、冬真が何と言うかが気になった。
「ん、美味しい。月島さん、料理得意じゃなさそうだし、これ、作るの大変だったんじゃない?」
【毎日練習して、家に失敗作が大量に冷凍保存してある】
「・・・・・・それは無理して食べない方がいいんじゃない? でも嬉しい、俺、いつも出来合いの物しか食べてないから手料理とか久し振りで・・・・・・、だから嬉しい。ありがとう」
冬真はそう言って柔らかく微笑んだ。
ほのかは冬真が想像以上に喜んでくれた事に苦労して作った甲斐があったと嬉しくなった。
「もしかして、星が好きだって、あいつから聞いた?」
ほのかは冬真の言うあいつは陽太の事だと気が付き、小さく頷いた。
「はあ・・・・・・やっぱりな。俺に気を遣ってか。月島さんの好きな物じゃなきゃご褒美にならないんじゃない?」
冬真は少し不機嫌そうな、残念そうな顔をした。
【元々月とか好きだったけど、今日プラネタリウムを見て星もすごく好きになった】
そう書いてみせ、ほのかは笑った。
「そう、だったらいいけど」
ほのかはふと、何故冬真は星が好きなのかが気になった。
【氷室君は何で星が好きなの?】
「ん? ああ、子供の頃に映画で山の中を道に迷う話があって、星さえ見えれば方角が分かるって知ってから、自分もサバイバルで生き残れるように星について勉強した。それから方角が分かる星だけじゃなく、色んな星にも目を向けるようになって、宇宙の事とかも知るようになって、気が付いたら好きになってたんだ」
理由が冬真らしいと思い、ほのかは思わず吹き出しそうになった。
理由はどうあれ、何かに打ち込めるのは素敵な事だと思った。
「プラネタリウム、月島さんは解説聞こえなかっただろ? 良かったら俺がみっちり教えるけど」
ほのかは冬真の眼鏡がキラリと光った気がした。
食後、冬真はパンフレットを見せながらほのかにプラネタリウムの内容を解説した。
それはプラネタリウムの上映時間よりも長かった。
「だから星は冬の方が綺麗なんだ」
冬真の説明は勉強を教える時と同様で、とても分かり易く丁寧だった。
そして、実際にそんな星々をこの目にしてみたいと思った。
【いいな、見てみたい】
「じゃあ、いつか星、一緒に見る?」
そう言ってしまってから、冬真は自分で恥ずかしい事を言ってしまった気がして顔を紅潮させた。
「あ、や、やっぱり何でも・・・・・・」
そう言いかけて止めた。
【一緒に星を見たい】
「・・・・・・ああ、いつかな」
そして空を見上げた。
遠い遠い遥か彼方の空の先、そこに広がる物に想いを馳せ、その日が来ることを願った。
次々と映し出される星々は、とても幻想的で、神秘的で、美しかった。
音が聞こえない為、解説は何を言っているか分からなかったが、その分より本物の星を見ているような気分になれ、ほのかは満足していた。
冬真も楽しんでいるだろうかと気になり、隣を見ると冬真と目が合った。
だが、それも一瞬の事で、冬真はすぐに頭をぐるりと反転させた。
ほのかは先程まで忘れていた気持ちに再び襲われた。
それは段々と靄の様になって心の中を広がっていった。
プラネタリウムの上映が終わると二人は天体模型が並ぶコーナーを静かに歩いていた。
ーー沈黙が重い・・・・・・。
冬真は元々学校でも陽太と比べたら余り喋らない方だったが、それでもいつもならもう少し話してくれていた。
ほのかは今日は何故か無口な冬真が気になっていた。
思えば、朝から言葉が少なかったり、手を振り払われたり、並んで歩かず速く歩いてたり、プラネタリウムでも手をすぐに離されたり、目が合っても物凄い勢いで逸らされた。
思い出せば思い出す程ほのかは不安になった。
ほのかはその不安からある考えが頭を占めていた。
いつの間にか、冬真に嫌われる様な事をしてしまったのかもしれない・・・・・・。
きっと朝から遅刻してしまったのがいけなかったのだとほのかは思った。
もっと、冬真と仲良くなりたいと思っていたほのかは悲しさで胸が詰まりそうになった。
このまま嫌われてしまうくらいならと、ほのかは背中のリュックから手提げの布バックを取り出し、前方を歩く冬真の袖を引っ張った。
すると、冬真は驚いた様な顔で振り返った。
「月島さん?」
【今日はありがとう。これ、勉強を教えてくれたお礼に】
「えっ?」
ほのかはバックを冬真に半ば押し付けるように渡すとくるりと後ろを向き、その場から逃げる様に走り去った。
「月島さんっ!?」
渡された物を見ると、冬真は目を見開き、唇を噛み締めその場に立ち尽くした。
ほのかは出口を目指して走っていた。
だが、建物内は迷路の様に広く、宇宙をイメージした空間は暗めの配色になっていて道順も分かりにくくなっていた。
ほのかは走るのを止め、じっくり出口を探す事にした。
一人で展示を見ながら歩いていると、まるで宇宙空間に取り残された宇宙飛行士にでもなった気分になった。
――寂しい。
そんな気持ちが込み上げ、ずっと堰き止めていた物が壊れた。
月の満ち欠けが模型で置いてある展示の前で立ち止まっていると、ほのかは誰かに手を掴まれた。
それは汗をかきながら息を荒くした冬真だった。
「はあっ、はあ、歩くのは遅いくせに走るの速すぎ」
そして、ほのかの顔を見て冬真はハッとした。
「何で・・・・・・、何で泣くんだよ」
冬真は手を引くと、ほのかの頭を自分の胸に抱きとめた。
ずっと静かにその体勢のまま、冬真はほのかが泣き止むのを待った。
それは冬真自身がほのかの泣き顔を見たくなかったからでもあった。
お世話係として、友達として、その笑顔を守ると決めたのに、今日の自分に腹が立った。
暫くして、ほのかの手と頭を離すと、ほのかは落ち着いてきたのか涙は止まっていた。
「どうして泣いてたの? 月島さんが何を思っているのか、ちゃんと言って欲しい」
ほのかは迷っていたが、その熱のこもった瞳から逃げられず、スケッチブックを手に取った。
【避けられてる気がして、嫌われたのかと思って】
「はあ? 何で・・・・・・」
冬真はほのかが何故そう思うのかがすぐには分からなかった。
そして、朝からの自分の態度を顧みて、ほのかにどう映っていたのかを想像した。
「あー、違うんだ」
ほのかは何が違うのだろうとキョトンとした顔をした。
冬真は言うのを躊躇っていたが、今度は自分がちゃんと言う番だと意を決して口を開いた。
「本当は今日、ずっと楽しみにしてたんだ。月島さんも星とか好きなのかと思ったら嬉しくなった。朝会った時もいつもの制服じゃなくて可愛いって思ったら緊張して・・・・・・、そもそも、俺、女子苦手な方で・・・・・・色々慣れてないし、ちょっと触れただけで、目が合っただけで意識して・・・・・・、だから、嫌いとか絶対そんな事ないから」
冬真は一気にそう言うと恥ずかしそうに右手で顔を押えた。
「あーーもう、こんな事言わせるなよ、カッコ悪い・・・・・・」
ほのかは嫌われてたんじゃないと分かり、鬱々としていた顔を明るくさせた。
いつものクールな冬真からは考えられないくらい顔を赤くさせている様子を見て、ほのかはつられて頬を染めた。
緊張したり、意識してしまっていたのは自分でだけではなかった事に妙に安心してほのかは顔を綻ばせた。
「やっと笑った。もうお昼だし、これ、一緒に食べてくれる?」
冬真はほのかから渡された袋を目の前に突き出して言った。
二人は場所を移動し、建物の外に設置されているテーブルで食事をする事にした。
冬真に渡したのは手作りのお弁当だった。
誰かにお弁当を作るのは初めてで、蓋を開けるのが恥ずかしくなった。
ほのかは意を決してお弁当の蓋を開け、中を一目見ると素早く蓋を閉めた。
「え? 何で閉めるの?」
冬真は蓋を押さえるほのかの手を退けるとほのかが止めるのも構わずそれを開けた。
中を見て、冬真はほのかが必死に止める理由が分かった。
お弁当の中身は唐揚げやミートボール、プチトマト等、食べやすい物が入っていたが、箱のあちこちに飛び散りぐちゃぐちゃになっていた。
辛うじて、星の形に握ってあるおにぎりだけは原型を留めていた。
「そう言えば朝とか、さっき俺も走ってたからな・・・・・・。別に、ぐちゃぐちゃだからって味は変わらないだろ」
そう言って冬真はおにぎりを一つ掴み食べ始めた。
その様子をほのかは固唾を飲んで見守った。
一生懸命作り方を調べたり、朝早く起きて作った。
味見もちゃんとしたので食べられる物になっている筈だったが、冬真が何と言うかが気になった。
「ん、美味しい。月島さん、料理得意じゃなさそうだし、これ、作るの大変だったんじゃない?」
【毎日練習して、家に失敗作が大量に冷凍保存してある】
「・・・・・・それは無理して食べない方がいいんじゃない? でも嬉しい、俺、いつも出来合いの物しか食べてないから手料理とか久し振りで・・・・・・、だから嬉しい。ありがとう」
冬真はそう言って柔らかく微笑んだ。
ほのかは冬真が想像以上に喜んでくれた事に苦労して作った甲斐があったと嬉しくなった。
「もしかして、星が好きだって、あいつから聞いた?」
ほのかは冬真の言うあいつは陽太の事だと気が付き、小さく頷いた。
「はあ・・・・・・やっぱりな。俺に気を遣ってか。月島さんの好きな物じゃなきゃご褒美にならないんじゃない?」
冬真は少し不機嫌そうな、残念そうな顔をした。
【元々月とか好きだったけど、今日プラネタリウムを見て星もすごく好きになった】
そう書いてみせ、ほのかは笑った。
「そう、だったらいいけど」
ほのかはふと、何故冬真は星が好きなのかが気になった。
【氷室君は何で星が好きなの?】
「ん? ああ、子供の頃に映画で山の中を道に迷う話があって、星さえ見えれば方角が分かるって知ってから、自分もサバイバルで生き残れるように星について勉強した。それから方角が分かる星だけじゃなく、色んな星にも目を向けるようになって、宇宙の事とかも知るようになって、気が付いたら好きになってたんだ」
理由が冬真らしいと思い、ほのかは思わず吹き出しそうになった。
理由はどうあれ、何かに打ち込めるのは素敵な事だと思った。
「プラネタリウム、月島さんは解説聞こえなかっただろ? 良かったら俺がみっちり教えるけど」
ほのかは冬真の眼鏡がキラリと光った気がした。
食後、冬真はパンフレットを見せながらほのかにプラネタリウムの内容を解説した。
それはプラネタリウムの上映時間よりも長かった。
「だから星は冬の方が綺麗なんだ」
冬真の説明は勉強を教える時と同様で、とても分かり易く丁寧だった。
そして、実際にそんな星々をこの目にしてみたいと思った。
【いいな、見てみたい】
「じゃあ、いつか星、一緒に見る?」
そう言ってしまってから、冬真は自分で恥ずかしい事を言ってしまった気がして顔を紅潮させた。
「あ、や、やっぱり何でも・・・・・・」
そう言いかけて止めた。
【一緒に星を見たい】
「・・・・・・ああ、いつかな」
そして空を見上げた。
遠い遠い遥か彼方の空の先、そこに広がる物に想いを馳せ、その日が来ることを願った。