きみこえ
X'mas if 後編 聖夜の祝福を君と・・・・・・
二人は境界線を前に立っていた。
揃って足を踏み出すと、すぐに視界は強制的に百八十度変えられて元の場所に戻ってしまっていた。
「まだ駄目か、月島さんこんな時間まで大丈夫? 特に・・・・・・あの保健医とか」
冬真はあの変態ストーカー保健医の存在を忘れてはいなかった。
いつもなら自分の携帯に脅迫めいた電話がかかってきてもおかしくない時間だった。
【急に泊まりの研修が入ったって言ってた】
「クリスマスに研修とはご苦労なこったな。携帯が使えない山奥にでも居るのか・・・・・・? 次はどうする? そろそろ本気を出さないと本当に帰れないかもな」
【こっち!】
ほのかは冬真の手を引き歩き出した。
ほのかに手を引かれるまま辿り着いたのは教会の近くにある公園だった。
「綺麗だ・・・・・・」
気が付けば、冬真はそんな言葉を漏らしていた。
目の前にあったのは大きなモミの木のツリーだった。
おもちゃ屋にあったのよりも何倍も大きく、電飾が黄色や赤や青や緑と様々な色に変化して煌めいていた。
今までツリーのイルミネーションなど散々見てきたつもりだったが、ここまで綺麗だと思ったことはなかった。
大きな公園ではない為、穴場なのか周りには人が居らず、二人だけしか見ていないのが勿体ないくらいだった。
「よくこんな所知ってたな」
【水族館のあったタワーのエレベーターから見えたから、もしかしてと思って】
「なるほどな」
【奥の手を用意しました!】
ほのかは自信ありげな顔でそうスケッチブックを見せた。
「奥の手?」
ほのかはカバンから綺麗な包装紙に包まれた箱を冬真に差し出した。
「俺・・・・・・に?」
冬真はまさかほのかがプレゼントなんて用意していたとは夢にも思わず、戸惑いながらもその箱を受け取った。
【メリークリスマス!!】
「ありがとう」
【祝福と言えばやっぱりプレゼントかなって】
「原点回帰って訳ね」
それは安直な考えだったが、まだ実際には試していない事だった。
「開けてもいい?」
冬真がそう尋ねるとほのかはコクリと頷いた。
包装紙を丁寧に広げ箱を開けると、そこには紺色のチェック柄のマフラーが入っていた。
【その色、氷室君に似合いそうだと思って】
気に入ってもらえるか気になってほのかはドキドキしながら冬真の顔を見た。
すると、冬真は自分の首に巻いていたマフラーを取るとほのかから貰ったマフラーを巻いて優しげに笑った。
ほのかはその冬真のたまにしか見せないその笑顔が好きだった。
「ありがとう、でも俺、お返しとか何も用意してない・・・・・・あ」
冬真は先程まで巻いていた茶色のマフラーをほのかの首に巻いた。
そのマフラーはふわりと柔らかく、ほんのりと冬真の香りがした。
「その・・・・・・、中古で悪いけどそれ普段あまり使ってなかったから綺麗だと思うけど、気持ち悪かったら捨ててくれてもいいし」
冬真は少し恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、ほのかから目線を逸らしながらそう言った。
【ありがとう、あたたかい】
ほのかが嬉しそうに笑うと、冬真は更に顔を紅潮させて照れ隠しからぐるりとほのかに背を向けた。
「くそっ、調子狂う・・・・・・」
頬の熱が取れてくると、冬真はほのかに向き直った。
「でも本当に付き合わせて悪かったな。こんな時間まで迷惑だろ?」
全てはあの訳の分からないサンタ服の男のせいだ。
この寒空の下、きっと早く帰りたいと思っているに違いない、冬真はそう考えていた。
だが、ほのかの答えは予想とは違っていた。
【すごく楽しかったから大丈夫】
「楽しかった・・・・・・?」
【氷室君は楽しくなかった?】
ほのかは不安げな顔で冬真の顔を見た。
「そんな訳っ! ・・・・・・俺も楽しかった。今までのクリスマスで・・・・・・一番楽しかったと思う。こんなに遊び倒した事もなかったし」
ほのかは今までで一番という言葉に嬉しくなる反面、今まではどうしていたのかと気になった。
【いつものクリスマスはどうしてるの? 春野君といっしょにパーティーとかは?】
「クリスマスは大体いつも一人だよ。うちの家族は皆仕事で家にあまり戻らないし、陽太の家は毎年家族ぐるみでクリスマスパーティーとかするからな。誘われた事は何度もあるけれど、ああいう家族が楽しそうにしてる姿が羨ましくて、眩しくて、自分が惨めに思えて・・・・・・苦手なんだ。だからいつも断っている」
そう寂しそうに言う冬真に、ほのかは自分の胸がギュッと掴まれたように苦しくなった。
ほのかはスケッチブックに文字を書くと、冬真の手を取り【今年は一人じゃないよ】とスケッチブックを見せた。
「ああ、そうだな。ありがとう」
そう言うと冬真は握っていた手に力を入れほのかを引き寄せ抱きとめた。
「手・・・・・・冷たいな」
ほのかは自分の冷えた手に冬真の体温がじんわりと移動してくるのを感じたが、突然の冬真の行動に心臓はそれどころではなかった。
「ずっとこの町から出られなかったらどうするか聞いたけど、俺は月島さんとならずっとこのままでもいいと思ってるけど?」
そう言われて、ほのかは芯まで冷えていたにも関わらず体の温度はグングンと上がっていく。
じわりじわりと手に熱が帯びていく。
「なんてね。ちょっと手、あたたかくなった?」
ほのかはじんじんする手から心臓の鼓動までもが伝わるんじゃないかと思い、逃れるように手を振りほどこうとするも、それを冬真が逃すまいとまた手を捕まえ指を絡め取った。
「それくらい今日は楽しかったよ。いいクリスマスになったし、いい誕生日にもなった」
誕生日という思わぬ言葉を聞いてほのかは慌てた。
キョロキョロと辺りを見回し、もう片方の手でポケットやカバンをまさぐった。
何か、何かあげられるものはと思ったが、何も無いという事にほのかは意気消沈した。
「ん? 誕生日って知らなかった顔してる・・・・・・。正確には明日・・・・・・いや、もうすぐ今日になるかな。あ、別に誕生日プレゼントとかいいから。もう十分すぎるくらい貰った」
冬真はそう言ってほのかの頭を撫でた。
「でも、何かくれるって言うなら一つだけ我儘を聞いて欲しい。勝手な我儘だから、もし駄目なら忘れてくれて構わない」
冬真はほのかに顔を近づけ額と額をくっ付けた。
その想いは熱を持って白い吐息と共に吐き出された。
「来年も俺とクリスマスを一緒に過ごして欲しい」
あの男の言うそれはすぐそばにあった。
誰かと過ごす特別な日・・・・・・、それが家族だとか友達だとか恋人だとか、それは人様々だが、その大切な誰かと過ごす特別な時間、それがあいつの祝福なのかもしれないと、冬真はそう思った。
「お、どうやら見つけたみたいだな」
黒須 三太は二人の様子を密かに見守っていた。
冬真の見出したものに満足気な表情で微笑んでいた。
「当主様、何もここまでしなくても、お巡りさんに見つかったら普通に補導される時間ですよー。悪い奴とか居たらどうするんです?」
黒須 三太はその声に振り向くとすっかりソリの準備を整えたトナカイが立っていた。
「ルーちゃん、何? 迎えに来てくれたの? 大丈夫だって、そんな事にならないように侵入阻害の魔法をだな」
「またそんな魔法の無駄遣いをしてー」
「だあって、時間まで退屈だったんだもーん。さ、そろそろ行くとするか。あ、そうだ」
黒須 三太はパチリと指を鳴らした。
「これは俺からのおまけ、だな。メリークリスマス!!」
町に午前零時を告げる鐘の音と共に、白い羽根の様な雪が舞った。
二人は境界線を前に立っていた。
揃って足を踏み出すと、すぐに視界は強制的に百八十度変えられて元の場所に戻ってしまっていた。
「まだ駄目か、月島さんこんな時間まで大丈夫? 特に・・・・・・あの保健医とか」
冬真はあの変態ストーカー保健医の存在を忘れてはいなかった。
いつもなら自分の携帯に脅迫めいた電話がかかってきてもおかしくない時間だった。
【急に泊まりの研修が入ったって言ってた】
「クリスマスに研修とはご苦労なこったな。携帯が使えない山奥にでも居るのか・・・・・・? 次はどうする? そろそろ本気を出さないと本当に帰れないかもな」
【こっち!】
ほのかは冬真の手を引き歩き出した。
ほのかに手を引かれるまま辿り着いたのは教会の近くにある公園だった。
「綺麗だ・・・・・・」
気が付けば、冬真はそんな言葉を漏らしていた。
目の前にあったのは大きなモミの木のツリーだった。
おもちゃ屋にあったのよりも何倍も大きく、電飾が黄色や赤や青や緑と様々な色に変化して煌めいていた。
今までツリーのイルミネーションなど散々見てきたつもりだったが、ここまで綺麗だと思ったことはなかった。
大きな公園ではない為、穴場なのか周りには人が居らず、二人だけしか見ていないのが勿体ないくらいだった。
「よくこんな所知ってたな」
【水族館のあったタワーのエレベーターから見えたから、もしかしてと思って】
「なるほどな」
【奥の手を用意しました!】
ほのかは自信ありげな顔でそうスケッチブックを見せた。
「奥の手?」
ほのかはカバンから綺麗な包装紙に包まれた箱を冬真に差し出した。
「俺・・・・・・に?」
冬真はまさかほのかがプレゼントなんて用意していたとは夢にも思わず、戸惑いながらもその箱を受け取った。
【メリークリスマス!!】
「ありがとう」
【祝福と言えばやっぱりプレゼントかなって】
「原点回帰って訳ね」
それは安直な考えだったが、まだ実際には試していない事だった。
「開けてもいい?」
冬真がそう尋ねるとほのかはコクリと頷いた。
包装紙を丁寧に広げ箱を開けると、そこには紺色のチェック柄のマフラーが入っていた。
【その色、氷室君に似合いそうだと思って】
気に入ってもらえるか気になってほのかはドキドキしながら冬真の顔を見た。
すると、冬真は自分の首に巻いていたマフラーを取るとほのかから貰ったマフラーを巻いて優しげに笑った。
ほのかはその冬真のたまにしか見せないその笑顔が好きだった。
「ありがとう、でも俺、お返しとか何も用意してない・・・・・・あ」
冬真は先程まで巻いていた茶色のマフラーをほのかの首に巻いた。
そのマフラーはふわりと柔らかく、ほんのりと冬真の香りがした。
「その・・・・・・、中古で悪いけどそれ普段あまり使ってなかったから綺麗だと思うけど、気持ち悪かったら捨ててくれてもいいし」
冬真は少し恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、ほのかから目線を逸らしながらそう言った。
【ありがとう、あたたかい】
ほのかが嬉しそうに笑うと、冬真は更に顔を紅潮させて照れ隠しからぐるりとほのかに背を向けた。
「くそっ、調子狂う・・・・・・」
頬の熱が取れてくると、冬真はほのかに向き直った。
「でも本当に付き合わせて悪かったな。こんな時間まで迷惑だろ?」
全てはあの訳の分からないサンタ服の男のせいだ。
この寒空の下、きっと早く帰りたいと思っているに違いない、冬真はそう考えていた。
だが、ほのかの答えは予想とは違っていた。
【すごく楽しかったから大丈夫】
「楽しかった・・・・・・?」
【氷室君は楽しくなかった?】
ほのかは不安げな顔で冬真の顔を見た。
「そんな訳っ! ・・・・・・俺も楽しかった。今までのクリスマスで・・・・・・一番楽しかったと思う。こんなに遊び倒した事もなかったし」
ほのかは今までで一番という言葉に嬉しくなる反面、今まではどうしていたのかと気になった。
【いつものクリスマスはどうしてるの? 春野君といっしょにパーティーとかは?】
「クリスマスは大体いつも一人だよ。うちの家族は皆仕事で家にあまり戻らないし、陽太の家は毎年家族ぐるみでクリスマスパーティーとかするからな。誘われた事は何度もあるけれど、ああいう家族が楽しそうにしてる姿が羨ましくて、眩しくて、自分が惨めに思えて・・・・・・苦手なんだ。だからいつも断っている」
そう寂しそうに言う冬真に、ほのかは自分の胸がギュッと掴まれたように苦しくなった。
ほのかはスケッチブックに文字を書くと、冬真の手を取り【今年は一人じゃないよ】とスケッチブックを見せた。
「ああ、そうだな。ありがとう」
そう言うと冬真は握っていた手に力を入れほのかを引き寄せ抱きとめた。
「手・・・・・・冷たいな」
ほのかは自分の冷えた手に冬真の体温がじんわりと移動してくるのを感じたが、突然の冬真の行動に心臓はそれどころではなかった。
「ずっとこの町から出られなかったらどうするか聞いたけど、俺は月島さんとならずっとこのままでもいいと思ってるけど?」
そう言われて、ほのかは芯まで冷えていたにも関わらず体の温度はグングンと上がっていく。
じわりじわりと手に熱が帯びていく。
「なんてね。ちょっと手、あたたかくなった?」
ほのかはじんじんする手から心臓の鼓動までもが伝わるんじゃないかと思い、逃れるように手を振りほどこうとするも、それを冬真が逃すまいとまた手を捕まえ指を絡め取った。
「それくらい今日は楽しかったよ。いいクリスマスになったし、いい誕生日にもなった」
誕生日という思わぬ言葉を聞いてほのかは慌てた。
キョロキョロと辺りを見回し、もう片方の手でポケットやカバンをまさぐった。
何か、何かあげられるものはと思ったが、何も無いという事にほのかは意気消沈した。
「ん? 誕生日って知らなかった顔してる・・・・・・。正確には明日・・・・・・いや、もうすぐ今日になるかな。あ、別に誕生日プレゼントとかいいから。もう十分すぎるくらい貰った」
冬真はそう言ってほのかの頭を撫でた。
「でも、何かくれるって言うなら一つだけ我儘を聞いて欲しい。勝手な我儘だから、もし駄目なら忘れてくれて構わない」
冬真はほのかに顔を近づけ額と額をくっ付けた。
その想いは熱を持って白い吐息と共に吐き出された。
「来年も俺とクリスマスを一緒に過ごして欲しい」
あの男の言うそれはすぐそばにあった。
誰かと過ごす特別な日・・・・・・、それが家族だとか友達だとか恋人だとか、それは人様々だが、その大切な誰かと過ごす特別な時間、それがあいつの祝福なのかもしれないと、冬真はそう思った。
「お、どうやら見つけたみたいだな」
黒須 三太は二人の様子を密かに見守っていた。
冬真の見出したものに満足気な表情で微笑んでいた。
「当主様、何もここまでしなくても、お巡りさんに見つかったら普通に補導される時間ですよー。悪い奴とか居たらどうするんです?」
黒須 三太はその声に振り向くとすっかりソリの準備を整えたトナカイが立っていた。
「ルーちゃん、何? 迎えに来てくれたの? 大丈夫だって、そんな事にならないように侵入阻害の魔法をだな」
「またそんな魔法の無駄遣いをしてー」
「だあって、時間まで退屈だったんだもーん。さ、そろそろ行くとするか。あ、そうだ」
黒須 三太はパチリと指を鳴らした。
「これは俺からのおまけ、だな。メリークリスマス!!」
町に午前零時を告げる鐘の音と共に、白い羽根の様な雪が舞った。