金魚占い ○°・。君だけ専用・。○.
漂う…揚げたてのコロッケの香り。

花屋、婦人靴、金物屋……そして金魚屋。

もう何十年も前から…ここはこの風景を刻んできたのだろうか。

知るよしもない昭和の香りを、この商店街は今に伝えている。

そんな風に感じた。



「瑠璃……。瑠璃君、いますか?」

瑠璃の母親が居ることを意識して、私はいつもより遠慮気味にあぶくに踏み込む。

いつもと変わらない店内…なのに…どこか、何かが…違う。

“ 瑠璃っ”と呼ぶたびに、団地の様な水槽から金魚たちが、どっとこちらを見ているように感じる。

土佐錦。

出目金。

桜流金。

何かを訴えているかのように…私を見る。

静かすぎる店内を横切って、瑠璃がいるはずの居間へと階段を上がる。

「ごめんくださ…い。すみません…瑠璃君、いますか?」

そこに居るはずの瑠璃も、瑠璃の母親の姿もない。

薄暗い居間の蛍光灯がチカっとした瞬間…



ピロロ…ピロロ…♪


広斗からの着信にハッとする。

「広斗………?」

「やっと繋がった。 菜乃?!今、どこ?」

「今ね、ゆうがお商店……」



ブチっ


こんな時にかぎってやっぱりスマホ、調子悪い。

完全にロックダウンしてしまったらしい。

真っ黒になった画面にため息をつく……。

時刻すら表示されなくなってしまったようだ。


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