金魚占い ○°・。君だけ専用・。○.
「コラぁーーーー。広斗ぉ〜! 何、サボって女の子、引っ掛けてんのやぁ〜!」

「 すんませ〜んっ。(笑)」

「 油断も隙も無い奴やなぁ〜〜!」

「 違いますってぇ〜〜。」

広斗と呼ばれた彼は、親方らしき体格のいい中年のおじさんに肩をド突かれながらも、楽しげに笑って足場に囲われたビニールシートの向こうに消えていった。



ー ここへ来る私を見てたんだ。 ー


私はもう一度、アーケードの入口に目をやると…ちょうど、街灯とランタンに光が灯った。

夕方、5時を過ぎても明るい夏日。

それでも、時間通りに光が灯る。


どこか懐かしく…幻想的なこの商店街の夕焼け。

ここには、平成生まれの知らない魅力が詰まっている。

豆腐屋の音。

揚げ物屋のオレンジの照明……コロッケの香り。

金魚屋の水の匂い。

瑠璃もその、ひとつ。



ここへ来てしまう私を……

思わず、クスッと一人笑いをしてしまう。

私を見てたんだ。


変なの。

ストーカーじゃん。  ……なんて言ってしまいそうなのに、女心は不平等から出来ている。

彼に、そう言われて悪い気はしない。

むしろ…私…

何か大事なことを忘れていて……



目の前には、夕日に照らされた廃墟のセメント工場。

絡まって伸びるのは…たぶん夕顔のつる。

白いヒラヒラの花びらは…まるで金魚の尾びれのよう。

“ 卒業、ちゃんとしろよっ ”

帰り道、瑠璃とは真逆の力強い声が、何度も頭を駆け巡った。




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