妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
互いの熱が混ざり合う中、この温かな手を誰にも渡したくないと強く思った。
アザレア音楽スクールのイベント当日。
地上三階、地下一階の規模を誇る真新しい教室兼店舗の建物を見上げて、大きく息を吐き出した。
楽器や楽譜などを販売するフロアはもちろんのこと、アザレア音楽スクールの新教室やレコーディングスタジオまである。
駐車場には仮設テントが立てられ、そこでスタッフ数人がお客を呼び込むため配るだろうバルーンの準備に勤しんでいる。
ハートのバルーンで可愛らしく飾り付けられた入り口を見上げていると、晶子先生が建物内から「美羽ちゃん!」と私を呼ぶ。
「はい!」と高らかに返事をし、急いで晶子先生の元に向かう。
「ミニコンサートは十一時から二時間おきの四回。状況によって少し前倒しで始まるかもしれないから覚えておいて。あとは合間にしっかり休憩取るのも忘れないように」
いつもより早口でこれからの流れを説明する晶子先生に頷いて、私は一階フロアを見回す。
普段は楽譜や一部の楽器が並ぶことになるらしいが、今は広々とイベントスペースが設けられている。
そこにあるピアノで一旦視線を止めて、こみ上げてくる緊張感から逃げるようにすぐに目をそらした。