雪降る夜は君に会いたい
「お兄ちゃん、ロマンチックの練習しよ」

 ブランコから勢いよく飛び降りた雪実は振り向いて元気良く俺に言った。
 既に沈んだ夕日の名残の様に紅い雲が少しだけ二人を照らしてくれていた。

「そんな練習あるのかよ」
「うん。本番で恥をかかないようにしなきゃね」

 そう言いながらプレゼントしたネックレスの箱を開けだした。

「今度のお出掛けの時に付けようと思ってたけど、今日が大事な記念日になったから」
「何の記念日だよ」
「お兄ちゃんがヲタクの見た目を卒業できた記念日」
「そんなので大事な記念日にならないよ」
「じゃあお兄ちゃんと初めてデートした記念日」
「ヲタク卒業の買い物だろ? デートじゃないだろ」
「もう!」

 雪実は頬っぺたを膨らませて拗ねた表情を見せてきた。こういう所がロマンチックが無い証拠なのだろうか。折角雪実が雰囲気作りをして練習してくれようとしてるのに。
 気持ちばかりの外灯が公園をひっそりと照らし、夕方から夜へと変化を告げる。
 ペンダントを取り出し、お互いの顔の間に差し出して細く指からぶら下がったそれは静かに揺れていた。

「可愛いでしょ」

 一瞬ドキっとする。
 ペンダント越しに見える雪実の顔を見て照れた表情を見られまいと目を反らした。
 受け取ったペンダントを見て、夜空を見上げると丁度頭上に同じような三日月が静かに見守ってくれていた。

「あ、ちょっと待ってね」

 背を向けて準備していた雪実は振り向いてツインテールをゆっくり外した。
 艶やかな長い髪がなびき、白銀に変わっていった。
 陽の沈んだ公園に輝くように存在感を露わにする雪実に見とれていた。
 このままずっと見とれていたい気持ちを寒さが正気に戻す。いつの間にか小さな雪が舞い降りていた。

「この方がロマンチックでしょ?」
「お前がしたのか?」
「あやかしの能力におののいたかな?」

 流石雪女というところなのか。あやかしの姿になった雪実は俺を見惚れさすだけでなく雪まで降らすとは。
 再び背を向けてペンダントを付けてもらうの待っている雪実の首にそっと腕を回して付ける。
 指がかじかんでる筈もないのに上手く付けれなかったのは、間近で見た雪実の髪に気が行ってしまったからだろう。
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