雪降る夜は君に会いたい
「ちょっと、まだぁ?」
「もうちょい、もう……出来た!」
「へへ」

 振り向いてペンダントを摘まんで俺と交互に見る。まだ早い季節なのに降り注ぐ雪が余計に似合うその笑顔に俺はまた見とれてしまった。

「全然、ロマンチックの練習になってないね」
「いきなりは難しいよ」
「本番はいきなり訪れるものよ……アリガト」

 手を伸ばせば届く距離からより近寄って俺の胸に顔を埋めた。
 白銀の髪に雪が舞い降りる。白い吐息、頬が少しだけ赤くなっていたのを知っていた。それが雪の寒さのせいなのかどうなのか知る由もなく聞く勇気もなかった。
 ただ、今自分の胸元に雪実の頭が蹲っている事実だけに気持ちが集中していた。
 これもロマンチックの練習なのだろうか、いやきっとそうなのだろう。
 俺にその勇気はなかったのに、練習と言ってくれた雪実の言葉が背中を押す。
 そっと雪実の背中に手を回してグッと更に抱き寄せる。朝布団に潜り込んで来る時にはなんとも思わなかった雪実の身体が、こんなに華奢だったのかと思う程か細く感じた。
 自分の頬を白銀に触れる。冷たく感じたのはあやかしの身体になっているからなのか、舞い降りる雪のせいなのか。
 冷えた身体を本能的にもっと強く抱きしめた。

「……んっ……」

 漏れた声を聞いて少し緩めると、顔を見上げてきた。
 紅い唇から白い吐息が風に揺れては雪に掻き消される。
 より透き通るような白い肌に紅い唇は、人の姿になってる時の雪実より妖艶で本能的に美しいと感じた。
 落ちるリンゴを見たニュートンが万有引力の法則を思いついた時にどう思ったか知らないが、人は美しいものに引かれるというのも付け足してもらいたい。
 暗くなった公園で外灯に照らされたあやかしの雪実を見て、刻が止まったかのように思えた。
 本当に止まったかもしれないし、強くそう思ったからかもしれない。
 潤んだ瞳でじっと見つめてくる視線を逸らせられない、いや逸らせたくなかった。今この瞬間その瞳は俺だけを見つめているということに独占欲が本能的に働いたのだろうか。
 もし本能が意識を抑え込むのなら、たとえあやかしであってもこの透き通る白い肌に紅い唇を目の前にして引かれることを拒むなんてある筈が無い。
 美しいと直感的な感情に人は引き寄せられ惹かれる。
 目の前の潤しい唇に自身の唇を重ねるこの事象を制御出来る程、俺の人生は豊でもないし経験値も無い。
 俺は今、あやかしの雪実に引き寄せられ……惹かれて……恋に堕ちていく……。

「ママー! 公園に雪が降ってるよー」
「雪なんか降るはずないでしょ! きっと埃が舞ってるのよ」
「ほこりかー。ママー、今日のご飯メンチカツでしょー?」
「コロッケよ。早く来なさい」
「メンチカツとコロッケは違うのー?」

 子供の声が聞こえた瞬間、現実に引き戻された俺は雪実から離れ照れ隠しに公園内をウロウロした。
 雪実は親子が通り過ぎて行った頃には人の姿に戻っていた。同じ様に照れているのか俯き加減で外灯の光が当たらず顔が良く見えなかった。
 暫く無言のまま部屋に向かって歩いていたが、この空気に耐えられなくなったのか必死に話題を探した。

「ゆ、雪降ったら、さ、寒いな」
「そ、そうね。あれくらい晩飯前よ」
「あやかしになったら身体、冷たくなるんだな」
「そ。人の姿の時は冷え性だけど今度あやかしの姿で布団に潜り込んであげようか?」
「勘弁してくれ。凍死するわ」

 なんとかいつもの二人の関係になれたように話をしながら部屋に帰った。
 次の日から、雪実が布団に潜り込んでくることは無かった……。

    ※
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