一級建築士の萌える囁き~ツインソウルはお前だけ~
ひとしきり製図と施工主さんの希望に関する見解の違いを海音と語り合った後、萌音は20時には自宅マンションにたどり着くことができた。

築20年のそこは、3月までは確かに萌音の祖母の家だったが、足腰が弱くなった祖母はあっさりと有料老人ホームに入ってしまい、就職祝にと、そのマンションを萌音に生前贈与してくれたのだ。

萌音の父方の祖母は、祖父の死後、長年このマンションで一人暮らしをしていた。

「試しに萌音ちゃんの好きなようにリフォームしてみなさいよ」

と、祖父の保険金と年金で裕福な祖母はリフォームの予算も渡してくれた。

おそれ多い申し出だったが、築年数も経ったマンションは二束三文でしか売れない。

萌音の両親も、叔父、叔母もそのマンションには興味がないらしく

「萌音の好きにしていいよ」

とあっさりと相続争いから離脱してしまった。

大学四年生だった萌音は、卒業課題として、祖母から受け継いだマンションのリフォームについてのレポートを提出することにした。

実際の顧客は自分自身であるため、長嶺教授に頼んで課題を出してもらうことにした。

教授が選んだのは、若い夫婦が安心して暮らせる優しい間取りと空間。

将来、萌音が結婚し、誰かと暮らすことを見越した長嶺教授の思いやりのこもった課題だった。

そうして間取りから内装、インテリア選び、システムキッチンにバストイレ、そして風水。

予算内でこだわり抜いた萌音のリフォーム大作戦は、大学生の建築デザイン賞受賞という結果で幕を閉じた。
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