一途な溺愛王子様
「な、なんで……?」


絞り出した声に、オバケのカンナはふっ、て笑った。それはなんだか懐かしさを覚える笑みだった。


「ひめが派手にケンカしてたって聞いたから、泣いてるんじゃないかと思って」

「な、泣いたりなんかしないし!」


むしろあんなケンカで、泣いてなんかやるもんか。

そう思って、フンッなんて鼻息荒く、あたしはついカンナから顔を逸らしてしまった。


「そっか、それなら良かった」


タンッ、と階段を上がりきったところで、カンナはあたしの隣に座って、突然ーー抱きしめてきた。


「ひめが俺のいないところで泣いてたら、どうしようかと思ってた」


びっくりして、あたしの体はカチコチに固まってしまった。


懐かしい香水の香りに、懐かしい体温。

そして……懐かしい、甘い囁き。


「間に合って、良かった」


……間に合って良かったって、なんだ。

だから、泣いたりなんてしないってば。

カンナがいようがいまいが、それは同じこと。あたしは泣くつもりも、泣きたいとも思ってなかった。

微塵にも思ってなかったのに、カンナがあまりにも優しくそんなことを言うものだから……あたしの心の奥底で、何かが小さく震えているのを感じずにはいられなかった。


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