一途な溺愛王子様
「ごちそうさまでした!」


パン、と顔の前で両手を合わせて頭を下げた。

とても美味しいケーキでした。


「食べ足りた?」


結局カンナはずっとあたしのことを見ながらコーヒーだけ飲み干した。一瞬ふてくされてたくせに、それもすぐに元どおりの態度に戻って、最後はもうあたしも開き直りだった。

カンナを一度でも打ち負かしたという事実と、ケーキの美味しさでなんとか乗り切ったあたしは、このカンナの言葉が引っかかる。


「なによ、人を大食いみたいに言わないでくれる? 足りたに決まってるじゃん」

「ははっ、俺のセリフをそんな卑屈に取らないで欲しいんだけど。単純に満足したって意味だよ」


そう言って、カンナはあたしの髪にそっと触れた。


「ケーキの屑付いてた」


髪についていたショコラケーキの小さなかけらをカンナは指で取った後、それを口に運んだ。


「やっぱ、甘いね」


……なら食べなければよくない?

二度目の不意打ちに、あたしは再び身を引き締めた。このテーブルの小ささと、この距離感が悪い。近すぎて、カンナがあたしのパーソナルスペースに踏み込んで来た時、なかなか反応できない。


……悔しいなぁ。


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