一途な溺愛王子様
「何の用って、ひめにおはようを言いに来たに決まってるでしょ」


左目にかかる程度に長い前髪をさらりと払って、あたかも爽やかにそう言うこの男の顔面に思い切りゲロってやりたい。そしたらあたしがどれだけ気分を害していたか気付くだろうに……。

それを試みたいところだけれど、それはさすがにあたしの中の理性とも呼べる乙女な部分がやめろと言うのでしないけれど。


「とにかく、もうチャイム鳴るし帰りなさいよ」


なーんでこんな明らかに胡散臭い男に向けて丁寧に言ってあげてるんだろう。そう思ってあたしは、勢いよく入り口を指差して仁王立ちだ。


「ってか帰れ!」


この悪魔はそんなあたしのあからさまな態度にも全く怯まず、何事も無い様子で教室に飾ってある時計をちらりと一瞥した後、再びあたしと向き合った。


「ああ、本当だ。じゃあ、また後でね」


相変わらずの笑顔でそう言った後、カンナはあたしのあげたままだった手をぎゅっと掴んだかと思ったら、その手の甲にキスをした。


「きっ……!」

「「きゃー‼︎」」


汚ったない! そう言おうとしたのに、あたしの言葉は複数の女子から漏れた黄色い叫び声にかき消されてしまった。


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