転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ~婚約式はロマンスの始まりですか!?~
こんな状況なのに、なにを考えているのだろう。
セスが戻ってきたあと、もっと早く向き合うべきだっただろうか。尋問のためだけではなく、彼と話をするためにこの部屋に来るべきだっただろうか。
 膝の上で、ヴィオラがもぞもぞと身体を動かす。落ち着かないらしい。なだめるように背中に手を滑らせると、動きは止まったけれど、今度はぴたりと固まった。

「と、とにかく! ふたりとも仲良く話したらいいんですよ!」

 膝の上で、固まったままのヴィオラが力を込めて叫ぶ。
 その時、自分の中の感情に、きちんとした名前がついたような気がした。

「愛おしい」だ。
 保護欲でもなく、恋でもなく――ただ、目の前の存在が愛おしい。自分の感情に名がついた瞬間、どうしようもなくなってしまう。

(……まいったな)

 これでは、ヴィオラの手を離すことなんてできないではないか。他の誰かに嫁ぐ日まで見守るなんてとんでもない。
 とても大切で、手放せない存在。
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