転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ~婚約式はロマンスの始まりですか!?~
 ヴィオラの決意を感じ取ったのか、リヒャルトはうなずいてくれた。

「大丈夫か。顔色が悪いぞ」
「大丈夫です」

 そう返したものの、ヴィオラの顔色は悪い。
 緊張で胃が口から飛び出すのではないかと不安になるほど、胸が締め付けられている。

(……やっぱり、怖い)

 自分のことだから、自分で行動しなければいけないと思っていた。だが、ザーラと正面から対峙するのは怖い。
 そして、恐怖の理由がザーラだけではないこともヴィオラは理解していた。

(お父様が、私をどんな目で見るかわからないのも怖いんだわ)

 この世界で〝ヴィオラ〟だけの記憶を持って生きていた頃。
〝咲綾〟としての記憶がよみがえったあとも、あの頃のことはどこか遠い世界のように、薄い膜を通して見ている感覚がある。
 父は、一度もヴィオラを愛したことなんてなかった。彼にとって大切な家族なのはザーラとふたりの子供達だけ。
 それなのに、ヴィオラの中の何かがそれだけでは寂しいのだと訴えかけてくるのだ。期待するのはやめたはずなのに。
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