たとえ君が・・・
多香子は気持ちを切り替えるためにギュッと目を閉じた。

その瞬間に温かいぬくもりに包まれる。

多香子が目を開けるとそこには白衣姿の橘渉(35)がいた。
「風邪、ひくぞ」

渉は多香子がここにいることを知っていた。
一緒に総合病院で勤務していた時から、二人は何か悲しいことやうまくいかないことがあるとこうして屋上に来ていた。

渉の上着が多香子の肩にかけられ、多香子は一瞬にして体が温まる。

誰かのぬくもりってこんなにもあたたかい・・・。
「院長がこんなところにいていいんですか?」
多香子の言葉に渉は「ははっ」と笑った。

渉はこの産婦人科の院長だ。
渉のお父さんが立ち上げたこの病院は地元では人気の高い産婦人科だった。
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