たとえ君が・・・
「結局、俺は何もできなかったよ。理恵に。ただ普通に過ごせるように気を付けて、彼女が悲しみから抜け出すのを待ってただけだよ。それに正直、今だってどきどきしてる。かなりな。3人目にもしものことがあったらどうなっちゃうんだろうって。俺自身が平静を保てるのかって。」
「奥さんはなんて?」
「不安だけど、一緒なら大丈夫って言ってくれてる。2人目のことは悲しいけど、忘れないって。自分はその子の人生も背負って生きていくって決めてるらしいんだ。俺も、亡くなったこの人生を一緒に背負って生きてるつもりだ。」
朝陽は自分の薬指の指輪を見た。
「俺も背負いたいんだけどな。背負えてるかな・・・」
渉がビールをまた一口飲みグラスを見つめると朝陽がそんな渉の肩をたたいた。
「俺は失敗してるだろ?一度は理恵を支えきれなかった。守り切れなかった。」
朝陽と理恵は一度離婚して、今は再婚している。
「もう二度と同じことは繰り返さないし、あの時間も俺たちには必要だったって思ってる。だからこそ、これからどんなことがあっても俺は逃げないし、理恵とちゃんと向き合いたいんだ。喧嘩しても、傷つけあっても、離れない。もう二度とあんな離れている間の喪失感を味わいたくないし、人生何があるかわからないのに、離れている時間なんてもったいないだろ?一分一秒でも長く一緒にいたいからさ。」
朝陽の言葉は渉の心にかなり響いた。自分も多香子と離れたくない。せっかく近くなった距離を離したくない。そのために、乗り越えなくてはならないものがまだある。
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