かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
第六章 私、負けました。
「加賀美さん、結婚ってなんだと思いますか?」

「ブッ! なんだよ、いきなり……」

お茶を噴き出しかけた加賀美さんが口元をぐっと手の甲で拭う。

パティスリー・ハナザワの景気はプロジェクトの実行依頼、なんとか持ち直しの方向へ進んでいた。仕事は順調。けど、いまだにピンバッジが見つかってなくてそれが胸に引っかかっている。それに、私は長嶺さんに身体を許してしまった。あれから何度も“結婚”という文字が頭をぐるぐる回り、休憩時間にデスクでおにぎりを食べている加賀美さんに、私はそんな素朴な質問をぶつけた。

「どうしたどうした? お前の口から結婚なんて聞く日が来るとはなぁ」

『結婚なんてまったく考えてませんし、今は仕事が恋人です』なんて、昔、あまりにも彼氏がいなさ過ぎて加賀美さんに茶化されたとき、私はそう豪語した。それが今はこんなにも気持ちが揺れているから自分でもお笑い種だ。

「結婚なんて勢いだろ? 年食ってからじゃ、あれこれ考えて頭でっかちになって気づいたら、やっぱり私はひとりでいいなんてことになるぞ? って、バツイチの俺が言ってもまったく説得力ないけどな」

ゲラゲラと笑う加賀美さんを見ていると、聞いた相手が間違ってたと後悔する。するとそこへ、会社用のスマホが鳴って電話に出ると、それは意外な人物からだった。
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