かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「ああ、長嶺不動産は俺の父親の会社だよ。開発運営管理部もここのオフィス棟にある。俺の職場だ」

お父さんの会社って、じゃあ長嶺さんは……御曹司ってこと!?

今までそんな類の人に巡り合ったことなんてなかった。ただわかるのは、パリで出会った彼が実は雲の上の人だったということだけ。

連絡先を交換したわけじゃないのに、もう二度と会うことなんてないって思ってた。それなのにこんな神様の悪戯みたいなことってあるの?

肝心なことを彼に聞かなきゃならない気がするのに、なにを話していいのやらわからず、ずっと黙っている私に長嶺さんが口を開いた。

「そしてもうひとつ、偶然が重なったな」

「もうひとつの偶然?」

「そ、たまたま俺と君がこの店にいて、君が俺に電話をしてくれたことだ」

なんとなく嬉しそうなのは気のせいだろうか。

電話をかけたのは事故みたいなもので……と弁解したかったけれど、電話をした事実を受け入れるしかなかった。

「で、賭けの勝負は俺に軍配が上がったって思っていいよな?」

「賭け? あっ」

そうだった、確かそんな賭けを……思い出した。

――なんなら賭けようか? 俺たちがまた会えるかどうか。

――俺が賭けに勝ったら……ひとつだけ願いを叶えてもらおうか。君が勝ったら、俺が君の願いをひとつ叶える。

迂闊にもそんな賭けをした会話の内容が鮮明に浮かび上がる。

「そう、ですね……私の負けです」

潔く負けを認めると、長嶺さんは急に勝ち誇ったような顔になり、じっと私を見つめた。

「じゃあ、早速、ひとつだけ願いを叶えてもらおうか」

とりあえずお金には困って入なさそうだし、この容姿なら女性にだって不自由していないはずだよね……何が望みなの?

何もかも簡単に手に入れられそうな長嶺さんの口から、一体どんな願いをされるのか想像がつかなくてドキドキと波打つ鼓動がうるさく鼓膜にまで響いてくる。

「俺と結婚して欲しい」

……は?
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