かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「俺たちの再会に乾杯、だな」

名刺を手にしながらまだ現実が掴めていない私をよそに、長嶺さんは私のグラスに軽く自分のグラスを合わせた。

まさか、ほんとに再会するなんて……信じられない。

名刺に記されている開発運営管理部長、の肩書にハッとする。

館川さんが言ってた長嶺不動産のショートケーキ好きな部長って、彼のことだったんだ。うちの会社にオファーをしてきたのも……彼だ。

加賀美さんから『依頼してきた部長への挨拶は店を下調べして改めろ』と言われていたけれど、いきなりの本人登場に私は驚きを隠せなかった。

「俺が先週パリにいたのは単なる旅行。そして偶然君に出会った。そしてまた偶然にもここで再会した。どう考えてもこれって運命だろ?」

「え……」

相槌を求めるように長嶺さんが私の顔を覗き込む。思わずドキッとしてしまったのは、あまりにも彼の瞳が綺麗だったから。早鐘のように心臓が高鳴って、お酒のせいだと言いたいけれど自分でも顔が赤くなっているのがわかる。

「あの、長嶺不動産の本社がここのオフィス棟にあるって聞きましたけど、長嶺さんの職場もここなんですか?」

変にボロが出ないうちに話を変えようと、すでにわかっていることを敢えて尋ねる。
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