かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「じゃあ、味噌ラーメンにします」

そう言うと、長嶺さんは店員を呼び味噌ラーメンをふたつ注文する。

「仕事はどうだ? 順調か?」

「はい。なんとか……でも」

仕事はどうだ、と聞かれてまず浮かんだのは事務所で見たパティスリー・ハナザワの売り上げの現実。

「どうした?」

長嶺さんは黙る私を心配そうに見つめている。そんなふうに見られると、彼の優しい眼差しについ甘えたくなってしまう。

「店の売り上げを見たんです。父が亡くなったことが報道されて以来、客足が遠のいてるみたいで……」

「そうか、けど」

不意に長嶺さんが表情を引き締めた。

「先代が亡くなって売り上げに影響は出ることは想定内だ」

「え?」

長嶺さんはなにもかもわかっていたような口調だった。ここで驚いて落胆されるより、この事実を堂々と受け止めて話を聞いてくれるのはありがたい。だから私も冷静になれる。

「それで今、売り上げを巻き返す方法を考えてる真っ最中なんです。これは私の課題ですね」

なんとなく雰囲気を暗くしてしまったと、私は真顔の長嶺さんに笑ってみせた。

「何事も前向きなのはいいことだ。けど、あんまり気を張りすぎるなよ? 俺になにかできることがあれば何でも言ってくれ」

「ありがとうございます」

こんなときに優しい言葉をかけられると、じんと胸が熱くなる。考えてみれば長嶺さんもクライアントだ。しかも責任者。先方が協力的だと仕事もやりやすい。

「持ちつ持たれつ、俺たちは夫婦だろ?」

「……仮ですけどね」

長嶺さんの優しい言葉は仕事相手としてのものだと思っていたけれど、いざ夫婦と言われて胸がトクンと波打つ。

夫婦、か……。
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