愛は、つらぬく主義につき。 ~2
5時に退社してそのまま来たから、他にお客さんはまだいない。ジャズっぽい音楽が緩く流れる、アンティークな雰囲気の店内はしっとりと凪いでた。
脱いだコートとスーツのジャケット、鞄を隣のスツールに置き、いつものカウンター席に。知らない他人が見たら、彼氏ナシのお一人様OLが行きつけのバーに通ってる感、満載。かな。

「お腹すいてるでしょ? なんか作るわね」

ユキちゃんが厨房の隅で、火を使い始めた音が聞こえてくる。
あたしは軽くカシスオレンジで喉を潤しながら、スマホから真にラインを送った。“ユキちゃんのゴハン、ひさびさ”。
すぐに既読になって、親指立ててウインクしてるクマのスタンプの返信。文章はくっついてこないから、立て込んでるんだろう。
あとで榊と迎えにきてくれるハズで、何時くらいかなってぼんやり。ふんわり漂ってきた、バターかチーズのコクのある香りに鼻の奥をくすぐられて、小さくお腹が鳴った。



「ハイ、簡単トマトリゾット~。熱いから気を付けてね、チヨちゃん」

ドラ〇もん風な紹介で、トマトジュースと冷凍ピラフを使ったって言うリゾットとバケットが置かれ、「ひと手間かければ、レトルトでもなんでも愛情料理よ」ってユキちゃんが笑う。

うちの夕飯事情や、哲っちゃんちの団らん風景なんかのよもやま話と一緒に美味しくいただいてから。モスコミュールを前に、少し神妙に相澤さんのことを口にしてみた。

「高津さんが本当に関わってたら、シノブさんの立場だってどうなるの」

やりきれない溜息交じりに。

「・・・そこまで考えない人には見えなかったのに」

二の組の若頭補佐が、三の組の若頭代理を謀殺しかけたってなれば、只ごとじゃ済まなくなる。一ツ橋の屋台骨が揺らぐ。彼があたしになにか企んでるなんて、それこそ大事の前の小事だよ。

色んな想像が頭の中を駆け巡り、自分でも消しきれない思いをつい零す。

「ユキちゃんも、やっぱり高津さんが犯人だって思う?」
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