溺愛なんてされるものじゃありません
「ちょっと主任、人前で溺愛の練習はやめて下さいよ?」

「人前で溺愛の練習なんてする訳ないだろう。それよりちゃんと飲み会を楽しんでいるか?」

練習じゃないって事は、さっきの可愛いってやつは本心?…いや社交辞令か、きっと。

「楽しんでますよ。主任こそ楽しんでますか?」

「あぁ…ただ赤崎以外の女性が目を合わせてくれないけどな。そういやお前、美織って名前だったんだな。初めて知った。」

私は突然の名前呼びにドキッとしてしまった。そういえば引越しの挨拶の時には赤崎です、としか言わなかったなぁ。

「それに26歳っていうのも知らなかったし、俺は赤崎の事何にも知らなかったんだなって思った。」

主任は不意打ちの笑顔を見せる。その笑顔に魅了されて、私は主任から目が離せないでいた。

「美織、席代わって?」

そんな中、ビールを片手に裕香が私の席にやってきて、耳元でコソッと話す。

「…いいよ。」

「ありがとう。せっかくの機会だから勇気を出して平国主任と話をしてみるね。」

裕香、主任を狙っている?チャレンジャーだなぁ。それなら私は退散しようかな。

「赤崎さん、いらっしゃい。」

元々裕香が座っていた席に座ると、隣の男性がニコッとしながら話しかけてきた。

「お邪魔します。」

私も笑顔を返す。

「赤崎さん、平国主任と普通に話してたよね?緊張とかしなかった?」

「それは…もちろん緊張しますよ。」

そうか。社長御曹司と噂の主任と普通に話をする女子はいないのか。裕香と主任をチラッと見ると、確かに裕香も緊張しながら話をしているのがこっちにまで伝わってくる。

「じゃあ今、俺の隣で緊張してる?」

「…緊張しますね。」

むしろ主任といるよりも緊張してます、と心の中で思う。

「そうなんだ。ちなみに赤崎さん、俺の名前覚えてくれてる?」

「えっと…。」

しまった。自己紹介をちゃんと聞いてなかったから名前知らないや。どうしよう。

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