溺愛なんてされるものじゃありません
「あれ?赤崎さんだ。うちの課で何してるの?」

コピーをとっていると、後ろから高成さんが声をかけてきた。ちょうど営業先から戻ってきたところらしい。

「営業事務代行中です。」

「へぇそうなんだ。」

高成さんは自分のデスクへ行き鞄を置いた。コピーが終わり、私は会議資料をまとめてホッチキスで止めていく。するとまた高成さんが私の元へやってきた。

「赤崎さん、夜飲みに行かない?」

「いえ、やめときます。あっそうだ。私、高成さんとお付き合いできません。ごめんなさい。」

「えぇ!?」

私は大きめな高成さんの声に驚き、手に持っていた会議資料を床に落としてしまった。

「突然大きな声出されたらびっくりするじゃないですか。」

「ごめん。」

私と高成さんは小声で言葉のやり取りをしながら床に散らばった会議資料をしゃがみ込んで拾う。

「でもさ、このタイミングで返事するなんて…しかも俺振られたよね、今。」

「だって高成さんが誘ってきたから、お断りしておこうと思って。」

「えー、この後の仕事のモチベーションが下がるわ〜。」

「それは…自分で何とかして下さい。」

しゃがみ込んでコソコソ話をしている私達の後ろから、主任が声をかけてきた。

「仲が良いところ邪魔して申し訳ないが高成、課長が呼んでるぞ。」

「はい。じゃあね、赤崎さん。」

高成さんは笑顔で私に言うと、そのまま課長の元へ行った。そして高成さんが居なくなった後、主任はしゃがみ込んで散らばった会議資料を拾い始めた。

「高成と仲が良いんだな。」

主任は静かな声でボソッと呟き、拾った会議資料を私に渡す。

「あ…ありがとうございます。」

そんな事ないです…そう言いたかったけど言えず、拾ってくれたお礼を言いながら会議資料を受け取った。

この後、主任は外回りで殆ど部署にいなかったので顔を合わせることはなかった。

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