溺愛なんてされるものじゃありません
ミント飴の彼女 ー蓮sideー
「高成、準備は出来たか?行くぞ。」

午後から契約が決まるかどうかの大事なプレゼンがある。何年営業の仕事をやっていても契約前のプレゼンは緊張してしまう。

俺は結構プレッシャーに弱かったりもするが、周りからはそうは見えないらしい。特に営業成績No.1というのが重くのしかかる。仕事を認められているようで嬉しさもあるが、大口の大事な契約があると高確率で俺に回ってくるのだ。

今回は特に美織の元彼の件もあり気が滅入っていたが、何とか美織と話も出来たし今は目の前の仕事に集中しよう。

営業車に乗り、高成の運転で営業先へ向かう。俺は助手席で美織からもらった緊張を和らげてくれるというミント飴を舐めながら、少し昔の事を思い出していた。


あれは三年くらい前だっただろうか。まだ俺が主任になる前だった。

「はぁ。」

誰もいない休憩スペースの隅っこで、俺は頭を抱えながら大きく溜め息をついていた。

契約が取れるかどうかがこの後のプレゼンで決まる。周りから期待されている分、絶対に失敗は出来ない…俺の背中には半端ないプレッシャーがのしかかっていた。

手は震えるし、血の気もサーっと引いているような感覚だ。緊張が治らないまま、時間だけが過ぎていく。

ちょうどその時だった。

「…あの、大丈夫ですか?顔色が良くないですけど、具合が悪いのでは?」

恐る恐る俺の顔を覗き込みながら、心配そうに声をかけてくれる女子社員がいた。初めて見る顔だな。制服を着ているって事は事務系の部署だろうか。

「大丈夫。少し緊張しているだけだから。」

「緊張…ですか?」

言い終わった後にハッとなる。緊張しているとか俺は何で彼女に弱音を吐きそうになってるんだ。情けない。

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