ボクソラ☆クロニクル
「風が……」
「風?」
「いや……なんでもねぇよ」
首の後ろに両手を当てながら、レオンは数刻前の出来事を思い返す。
(ニーナを庇ってナサエルに背中を向けた瞬間、俺は間違いなく斬られているはずだった……)
だがどうだろう。今の彼は傷1つ負っていない。無傷のままこのホワイト・アリス号への帰還を果たしている。
レオンは守られたのだ。ナサエルに斬りかかられたあの瞬間、どこからともなく吹き荒れた風によって。
『来て!』
ニーナが叫んだ直後だ。あの風がナサエルを吹き飛ばしたのは。
(あの風はニーナが起こしたものなのか?)
しかしそんなこと有り得るのだろうか。
この国には魔風石と言われる風のエネルギーを溜め込んだ鉱石が存在する。ホワイト・アリス号を初めとした飛行船の動力としても使用されるもので、然るべき方法で中に込められた風力を取り外すことが出来る。
だが魔風石は生身の人間が持っているだけで使用出来るようなものではない。
あれは石炭のようなもので、高温の炎にくべることで初めて中に込められたエネルギーを取り出すことが出来るものだ。単体ではただの石ころでしかない。
王国では人が携帯出来るサイズの魔風石を利用した武器開発も行われていると聞くが、ニーナがそれらしいものを使用した形跡は見られなかった。
(ポケットに隠し持っていた? いや、それこそありえない話だ)
ポケットの中に入れていられるような小さなサイズの魔風石であれば込められているエネルギーもたかが知れている。人を1人吹き飛ばすには火力が足りないだろう。
(アイツは小さなリュック以外これといった荷物も持ってなかった。隙を見てカルロスに荷物の中身を調べさせたけど、中は着替えと旅道具くらいしか入ってなかったって言うしな……)