ボクソラ☆クロニクル


 この国では陸路が使えない。
 正確に言えば、陸路が使えるのは州の中だけだ。隣の州へ移動するためには必ず『空路』が必要になってくる。


 メラヴィエ王国には、風壁と呼ばれる暴風域が蜘蛛のように国全体に張り巡らされている。

 風壁は文字通り、暴風域の壁だ。この中はとてもじゃないけど歩いて渡ることは出来ない。

 四方八方からバラバラに、風速四十メートルにもなる風が吹き荒れる風壁の中を、数キロから数十キロもの距離を歩いて渡ろうなんて自殺行為もいい所だ。当然だが、風壁の中では馬車だって進んでいくことは出来ない。馬が死んでしまう。


 だからこの国では遠距離移動をするときには風壁の上空、風の届かない空の上を飛んでいくための飛行船を使うのが定番なんだけど、諸事情があって今の私には正規の旅客船が使えなった。

 そうなるともう乗れる船なんて、空賊船くらいしか選択肢がないのである。


 空賊は荒くれ者の無法者だってことは知っている。
 だけれどもしかしたら親切な人が王都まで乗せていってくれるかもしれない。なんて淡い期待を抱いて、空賊たちの溜まり場であるスピコール酒場まで来たんだけど……。

「うう……」

 見る限り、噂通りの荒くれ者しかいなさそうだよ……。



 髪を切って男物の服を着て、目深く帽子を被っているから今のところは少年で通せているけど、彼らのような人間の船に女の自分が1人で乗り込んで、どんな目に遭わされるのか。分からないほど私も馬鹿じゃない。

 一縷の望みにかけたかったけどそれは無謀だったみたいだ。
 空賊に頼るくらいなら、通報される覚悟でイチかバチか商船に乗せてもらう方が余程安全だろう。


「うん、そうだ。そうしよう」


 そうと決まればこんなところに長居することもない。踵を返して、酒場を出ようとしたその時のこと。

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