騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
(確かに、小さい頃の私はよく庭で〝声たち〟と話していたわ。アーネスト様は、昔、私の家に来たことがある、っておっしゃっていたわよね……。もしかして、あの日、アーネスト様がたまたまうちにいらしていて、私がそれに気づかず庭に出ていたのだとしたら……)

 記憶の断片が、新しい仮説を導き出していく。

「もしかして今のは、アーネスト様の風の魔力ですか? それに、昔こんな感じで私の花壇の花びらも――」

 エルシーは急いで部屋に戻ったが、すぐに言葉を切った。

 アーネストがソファに座ったまま、目を閉じている。

(眠ってしまわれたの……?)

 ゆっくり近づくと、規則正しいかすかな寝息が聞こえてきた。力の反動の影響で、彼が急に眠りに陥ってしまうことはエルシーも理解しているので、驚くことなく、その横に腰かける。

(ゆっくり休んでください、アーネスト様)

 エルシーはアーネストに顔を近づけると微笑んで、そっと頬に口づけた。

 真相を尋ねるのは、また今度にしよう。ふたりの時間は、これからもずっと長いはずだから――。
 

< 107 / 169 >

この作品をシェア

pagetop