騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍

 普段の騎士団服とは違い遠征のための甲冑を身につけているが、太陽の下、黒髪が艶やかになびいている。アーネストもエルシーに気づき、視線を真っすぐに向けてきた。

 馬車が館の入口に横づけされると、周囲を守っていた騎馬たちも止まる。

(エルシー。今、戻った)

 至近距離でアーネストが頷く。無言の声はしっかりとエルシーに届いた。

(ご無事で何よりです。ずっとお待ちしておりました)

 それに応えるように、エルシーも微笑みかける。言葉はなくとも互いの気持ちを通じ合わせ、ふたりは見つめ合った。

 しかし、すぐに自分たちの職務に気持ちを切り替える。アーネストは馬から降り、エルシーはジェラルドたちを迎えるために、姿勢を低くして頭を下げる。

 静かに馬車の扉が開いて、人が降りてきた。砦の主らしき者に労いの言葉をかけている。ジェラルドの声だ。続いてそれはエルシーに向けられた。

「出迎えご苦労、セルウィン公爵夫人。母上からの知らせで聞いているよ。手間をかけさせて申し訳なかったね」

「いえ、もったいないお言葉にございます。陛下のご無事とご帰還、心よりお喜び申し上げます」

「ティアナ王女も、ずっと君に会いたがっていた」

 ジェラルドは馬車の出口に向かって手を差し伸べる。そこへ白い手が乗せられ、誰かが降り立つ。

「顔を上げてください」

 鈴の音のような、優しい声。エルシーは頭を上げ――ハッと息を呑んだ。

(えっ、ディアン様……?)

 銀色の長い髪、薄紫の瞳。目の前にいる人物はディアンそっくりだった。

「そっくりだろう? 私も最初驚いた。こちらが本物の王女だ」

 エルシーの戸惑いを察して、ジェラルドが周囲には聞こえない声で説明する。不躾だと思い長も、エルシーは今一度ティアナを見た。言われてみれば、身体のラインも女性特有であるし、瓜二つと思った顔立ちも若干違いが見受けられる。だが、それはディアンと接する時間が長かったエルシーだからこそわかるもので、それ以外の者には見分けがつかないに違いない。
< 155 / 169 >

この作品をシェア

pagetop