騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍

 
 エルシーが数人の王宮侍女を連れて、東のナバール砦に到着したのは四日後の午前だった。何の心配もなく旅を続けられたのは、王太后の命で同行することになった騎士団の小隊の存在が大きい。

 ナバール砦は、大昔大陸が領土争いで混乱していた時代に建てられたものだが、世の中が平定し、長く隣国と友好関係にある今は、その物々しい意味合いは薄れ、国境付近を見張る兵の拠点となっている。

 切り出した岩や石で積み上げられた壁内に入ると、厳つい外観とは対照的に中は広く、意外にもキレイに保たれていた。歴代の王たちが少しづつ手を加えて整えていったのだろう。

 騎士のひとりが指差した方に、小規模だが白い館が見えた。視察に来た王侯貴族専用の建物だという。エルシーたち侍女の一行は早速その館に入り、部屋の掃除を始めた。国王と王女のために、直ちに快適な空間を作り上げなくてはならない。

 時が経つのも忘れながら作業を終えると、とっくに正午は過ぎてしまっていた。皆で遅めの昼食を取っていると、突然、見張り塔の鐘がけたたましく鳴り響く。慌てて窓の外へ身を乗り出した時、騎士が現れ、国王の隊列がもうすぐ到着する旨を伝えた。

 エルシーは大急ぎで身なりを整えると、侍女たちと共に館の入口前に並ぶ。やがて、地面を揺らす馬の蹄の音が、遠くから聞こえてきた。それはだんだんと近くなり、エルシーの喜びも大きくなってく。

 兵たちが砦の門を開くと、先導していた騎士の一団に続いて王家の紋章が刻まれた立派な箱型馬車がゆっくりと入ってきた。おそらく、この中にジェラルドとティアナがいる。

 馬車は館へ向かって近づいてくる。その横にピタリと追従していた騎馬を見上げ、エルシーは目を見開いた。

(アーネスト様……!)
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