かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
「それはよかった」

 小毬との関係は、はっきり言ってうまくいっていると思う。こうして自然体で接してくれるし、笑いかけてくれる。

 俺の仕事のことを心配して、なにかと気遣ってくれたりもして、時々もしや両想いでは……? と勘違いすることもあるほど。

 学生時代は、小毬も俺と同じでただ恥ずかしいだけで、冷めた態度をとっているとばかり思っていた。

 本当、とんだ勘違いをしていたよ。小毬はただ、俺のことが嫌いだっただけなのに。

 あの時の小毬の態度を思い出すと、少なくとも今は昔ほど嫌われていないと思う。

 人を好きになる感情を知らないと言った彼女のペースに合わせて、ゆっくりと関係を育んでいきたいと思う反面、早く小毬の心も手に入れたい気持ちもある。

 それはきっと、このGWにかかっていると思うんだ。

 ちょうどインターホンが鳴り、時計を見ると約束の五分前だった。

「あ、来たみたい。いってくるね」

「じゃあ俺は料理をよそっておくよ」

「ありがとう」

 嬉しそうにキッチンから出ていく小毬を見送り、見栄えにも気を配り盛り付けていく。

 吉井の好感度が上がれば、小毬の中で俺に対する好感度も上がるはず。下心ありありだが、好きになってもらうのに、なりふり構ってなどいられない。

 小毬は心配するなと言うが、やはり会社での彼女を知らない分、不安は消えない。
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