かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
 この旅行の計画も、洋太と沢渡さんに助言を受けた。浴衣レンタルは沢渡さんから教えてもらったものだ。

『なぁ、将生。俺と浩美さん、うまくいってたよな? 仕事も楽しそうにやっていたよな?』

「あぁ」

『だよな。……だったらどうして急にあんなこと言ったんだろ。理由も話してくれないし』

 電話越しからでも、洋太がひどく落ち込んでいるのが伝わってくる。なにか声をかけたいのに、なんて言ったらいいのかわからない。それほど俺も動揺しているのかもしれない。

『俺……こんなに誰かを好きになったのは初めてなんだ。きっともう二度と浩美さん以上に好きになれる相手とは、出会えないと思う。そんな彼女を失うことになったら俺、生きていく自信がない』

 弱気なことを言う洋太に、俺までつらい気持ちになる。

「洋太、一度落ち着け。大丈夫、なにか事情があるんだよ、きっと。……連休が明けたら俺からも沢渡さんに聞いてみるから」

『将生……』

「だから元気出せよ。……生きていく自信がないなんて言うな。洋太がいなくなったら、俺こそ生きていけなくなるだろ?」

 するとやっと洋太から笑みが零れた。

『将生は俺の恋人かよ』

「似たようなもんだろ? ビジネスパートナーであり、親友なんだから」

 洋太を元気づけたい一心だったが、らしくないことを言うのは非常に照れくさい。電話でよかったと思う。

「戻ったらゆっくり話を聞くから」

『……ありがとう。おかげで少し落ち着いた』

 それを聞いて、俺もホッと胸を撫で下ろした。
< 162 / 265 >

この作品をシェア

pagetop