かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
『悪かったな、旅行中に。……もしかして最中だったか? 電話出た時の将生、機嫌悪そうだったし』

「違うから!」

 すぐさま否定すると、やっと洋太らしく笑い出した。

『本当に悪かった。……またな』

「あぁ、戻ったら連絡する」

 通話を切ったものの、スマホを見つめたまま立ち尽くしてしまう。

 洋太と沢渡さんは、なにがあっても大丈夫だと思っていたのに。だけど急に別れを切り出したのには、絶対なにか理由がある気がしてならない。

「あ、小毬……!」

 ハッとし、急いで戻る。すると彼女は待ち疲れたのか、縁側の柱に寄り掛かってスヤスヤと寝息を立てていた。

 無防備な寝顔に口元が緩む。

 起こさないように隣に腰を下ろして、顔にかかった髪を退けた。

 今日は慣れない下駄でたくさん歩いたし、疲れさせちゃったよな。本当はさっきの話しの続きを聞きたいところだけれど、気持ち良さそうに寝ている小毬を起こすのは忍びない。

 渡すタイミングを失ったネックレスの存在を思い出し、袋から取り出して彼女の首にそっと付けた。

「……ん、似合ってる」

 優しく髪を撫でてもやっぱり起きない。これは熟睡しているな。
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