かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
 幸せで満たされると離れていく唇。だけど目を開けるとまだ唇が触れてしまいそうな距離に将生の顔があって、微動だにできなくなる。

「もう一回キスしてもいい?」

「えっ……んっ」

 聞いてきたくせに、私の答えを待たずに再び唇を塞がれた。先ほどの触れるだけのキスとは違い、腰に腕を回され、よりくちづけは深くなる。

 このままキスに溺れたくなるものの、必死に理性を働かせる。キスを受け入れちゃったけれど、ここは自宅じゃない。彼の職場だ。

 ほとんど残っていなかったし、秋田さんたちも帰ったと思うけれど、万が一誰か入ってくることはない?

 そんな心配が頭をよぎり、彼の胸を押し返した。

「将生っ……待って、ここ会社でしょ?」

 キスはやめてくれたけれど、腕は回されたまま。必死に抵抗してもビクともしない。

「大丈夫、社長室に入ってくるのは洋太や沢渡さんくらいだから」

「でもっ……!」

 やっぱり気になってドアのほうを見ると、抱え上げられた。

「きゃっ!?」

 突然宙に浮いた身体にびっくりして、将生の肩にしがみついた。私を抱えたまま数歩進み、将生はデスクに私を下ろす。
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